TPP表明見送り 本質隠しては議論進まぬ


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 安倍晋三首相は今月下旬にワシントンで開くオバマ米大統領との首脳会談で、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の可否について表明を見送る方針を固めた。

 政権交代後もTPPの是非をめぐる国内論議は足踏みしたままだ。むしろ自民党内の反対派の勢力は増す一方であり、表明を見送らざるを得ないというのが正直なところだろう。
 ともあれ政府は、TPPが農業や製造業など日本経済に与える影響や、その場合の対策など、きちんと提示する必要がある。その上で国内論議を深め、国民の合意形成が可能か見極めるのが筋だ。
 民主党政権が2010年にまとめた影響試算は、農林水産省と経済産業省で出した数字がかみ合わず、推進派と反対派の対立をあおったとの批判がある。このため、安倍政権は政府の統一見解として試算を取りまとめる方針だ。
 ただ、試算の公表時期は「政治判断」(経済官庁幹部)とされ、きな臭さも漂う。TPPの本質隠しはもちろん、国民に強迫観念を植え付けるような情報操作はあってはならないと心すべきだ。
 そもそも自民党は昨年の衆院選で「聖域なき関税撤廃を前提とする限り交渉参加しない」との公約を掲げた。公約に鑑みれば、全物品の関税撤廃を原則とするTPPには、参加できないと表明するのが自然だ。実際、米や豪州など11カ国の交渉参加国は、全品目を自由化交渉の対象とする方針で一致しており、「聖域」が認められる見通しは立っていない。
 それでも、日本が明確に意思表明できない背景には、日本の参加を強く期待する米国の意向がある。安倍首相も日米同盟強化の観点から参加に前向きとされる。しかし、それは、安全保障問題と経済問題の取り違えにほかならず、極めて危ういと指摘せざるを得ない。
 首脳会談に向けた外交当局間の事前折衝で、米側は「記念撮影だけでは意味がない」とし、普天間飛行場移設やTPPで「具体的な成果」を示すよう日本側に求めたとされる。TPPで足踏みする今、日本が普天間で「成果」を見せかける外交手法を取る懸念も消えていない。
 しかし、TPP参加以上に、県知事や県内41全市町村長がこぞって反対する普天間の県内移設は不可能だ。首相はそのことを正直にオバマ氏に伝え、移設計画の再協議を正式に申し入れるべきだ。