レスリング除外 IOCは密室排し再考を


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 スポーツ界を揺るがす衝撃的なニュースが飛び込んできた。国際オリンピック委員会(IOC)は理事会で、2020年五輪で実施する「中核競技」を選定したが、伝統競技のレスリングを除外した。

 5月の理事会で残り枠の競技を絞り込み、9月総会で決定するが、「寝耳に水」とショックを受けたのは内外の関係者だけではあるまい。AP通信が「驚きの決定」と報じたことからも、国際的にも想定外の選定だったことがうかがえる。
 レスリングは人類最古のスポーツともいわれ、古代五輪の主要競技だった。近代五輪の1896年の第1回アテネ大会で実施された8競技の一つであり、五輪の歴史と伝統を体現する由緒ある競技であることは論をまたないだろう。
 IOCはレスリングを除外した理由について、無記名投票を繰り返した結果と説明するが、明確な理由を示していない。あまりに権威主義、密室主義にすぎないか、理解に苦しむ。
 中核競技の選定に当たっては、世界的な普及度、テレビ放送、スポンサー収入など39項目にわたって分析したとするが、肝心の結果は公表していない。関係者が「理由が知りたい」といぶかるのはもっともであり、無責任のそしりは免れない。IOCは説明責任を果たし、除外の経緯や理由を直ちにつまびらかにしてもらいたい。
 当初、除外の候補は、近代五種とテコンドーが有力とみられていたが、両組織団体の積極的なロビー活動が奏功したとの見方もある。五輪開催地の招致活動に象徴されるように、政治的な駆け引きや商業主義が進む現状には、正直、疑問も禁じ得ない。選定の背景に、競技の本質価値を超えた政治力学が働いたとすれば、極めて遺憾だ。
 レスリングは、ロンドン五輪の金メダル7個のうち4個を獲得した日本のお家芸だ。夏季五輪での通算金メダル数28個は、柔道36、体操29に次ぐ多さを誇る。除外の影響は計り知れない。何より、レスリングで五輪を目指す青少年の夢を摘み取ってはなるまい。
 IOCの5月理事会では、野球・ソフトボール、空手など採用を目指す7競技とともに、レスリングは存続を争う。その結果は、20年の東京五輪招致活動にも影響を及ぼしかねない。IOCにはレスリング競技の歴史と伝統を顧みるよう、再考を強く求めたい。