ハーグ条約加盟 管轄に那覇家裁加えよ


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 国際結婚が破綻した夫婦間で子どもの奪い合いが起きた際のルールを定めたハーグ条約の承認案と関連法案について、自民、公明両党は了承する方針を固め、5月にも国会承認される見通しとなった。現在87カ国が加盟し、主要国(G8)で未加盟なのは日本だけで、政府は米国などから早期加盟を迫られている。しかし家庭内暴力が絡んだ場合の対応で議論が尽くされておらず、制度運用面の不安が尽きない。

 沖縄側からみても法案には疑問が残る。同条約は一方の親が日本に連れ帰った16歳未満の子どもについて、外国にいる親が返還を求めた場合、原則として返還する内容となっている。外国にいる親が子どもの返還を日本の家庭裁判所に申し立てると、家裁は元の国に戻すかどうかを決める。
 法案では審理できる管轄裁判所を東京と大阪だけに限定している。子どもを連れて沖縄県に帰ってきた県出身の親は大阪の家裁に出向く必要がある。出頭のたびに航空機などの交通費、場合によっては宿泊費も負担することになり、経済的負担は計り知れない。
 2007年の国際結婚のうち、妻が日本人で夫が外国人の割合は全国で21・0%。これに対し、県内は71・3%に上り、そのうち夫の国籍の82・5%が米国だった。在日米軍の軍人、軍属、家族の約48%が県内で暮らしている(08年時点)ことからすると、夫の大多数は米軍関係者だろう。
 このため結婚後、米軍の異動で沖縄から国外に転居する可能性は高く、夫婦関係が破綻すれば、二国間別居に陥る場合が多い。まさに同条約に基づく申し立てが起きる割合が高いのが沖縄県だ。那覇家庭裁判所を管轄裁判所になぜ加えないのか。理解に苦しむ。
 法務省が11年、条約実施のための子の返還手続きに関する中間取りまとめについて意見を募集した際、県内のNPO団体、大学教授、弁護士らの有志が那覇家裁でも手続きができるよう求めた。しかし法案に反映されていない。これは納得できない。
 沖縄弁護士会は昨年から県出身国会議員に要請を重ねている。要請文には「問題は沖縄に米軍基地を集中させるという日本政府の政策により生じたものであるから、それゆえに沖縄県民に不利益を与えることは許されない」とある。政府はこの声に誠実に耳を傾け、那覇家裁を管轄に加えるべきだ。