胆管がん労災認定 迅速な解決に全力尽くせ


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 問題発覚から約9カ月。国がようやく被害者救済に向けて一歩を踏み出した。
 印刷会社従業員に胆管がんの発症が相次いでいる問題で、厚生労働省は労災申請があった大阪市の校正印刷会社「サンヨー・シーワィピー」の従業員ら16人全員について、業務と発症に因果関係があるとして、労災認定する方針であることが分かった。

 同社の問題を受けて、全国に広がった労災申請は、12日現在で62人に上っている。同じ業種で、これだけ同じ病気が多発していること自体、重大な労働災害が起きていると考えるのが普通だろう。
 多くの被害者が、闘病への不安やばく大な治療費の負担にあえいでいる。厚生労働省は、労災申請した全ての人を早急に認定、救済すべきである。労災申請の時効(5年)にも、柔軟に対応してもらいたい。
 産業医科大の熊谷信二准教授の調査によると、同社校正部門従業員の胆管がんによる死者が出る割合は、日本人の年齢別死亡率から算出された死者数の約2900倍だったことが分かっている。驚くべき異常な数値だ。
 なぜこの異常事態にもっと早く気付くことができなかったのか。同社が従業員の異常に敏感に反応し、対策に取り組めば被害は最小限に防げたはずだ。「何も答えられない」と繰り返す同社の対応に疑問が残る。
 原因物質は、印刷作業の過程で使用する有機溶剤である可能性が高いとみられている。本格的な原因究明はこれからだが、従業員の健康を守るためにも、業界を挙げて職場環境の点検・改善に取り組む必要があろう。同じ有機溶剤を使用する他業種も同様だ。
 被害の実態調査も不可欠だ。印刷会社従業員の健康調査や発症した被害者の追跡調査など、広範な調査が求められる。現職の従業員は、不安を抱えながら職務に従事している。専門家による一日も早い原因究明が待たれる。
 行政の監督責任も問われている。現行の化学物質の取扱規定が適切かどうか検証が必要だ。印刷会社で換気装置が設置されているかについても総点検すべきだろう。
 問題解決には業界、行政が現状に真摯(しんし)に向き合うことが不可欠だ。各種調査結果を迅速に開示し、被害者、国民の納得のいく解決策を提示してほしい。