森・プーチン会談 北方問題の解決に英知を


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 安倍晋三首相の特使としてロシアを訪問した森喜朗元首相と会談したプーチン大統領が、日ロ関係をめぐり「平和条約がないのは異常な事態だ」と述べ、北方領土問題の進展に意欲を示した。

 プーチン大統領は北方領土問題について昨年3月、自身が愛好する柔道に例えて「引き分け」による決着に言及したが、その意味合いについて「双方が受け入れ可能な解決策のことだ」と説明したという。
 懸案解決に向けた重い発言と受け止めたい。北方領土問題の進展は朝鮮半島情勢や日中関係にも影響しよう。東アジア全体の平和と安定のためにも、政府は日ロ関係改善に本腰で取り組んでほしい。
 ロシアにとっても、シベリア開発の本格的推進に、日本からの一層の経済協力が不可欠との判断が働いているようだ。日本にとっても、豊富なエネルギーと市場を抱えるロシアとの関係改善によるメリットは小さくない。
 何より、話し合いで領土問題を進展させることに重要な意味がある。竹島や尖閣諸島をめぐる問題でも、平和的な交渉による解決の機運が醸成されることだろう。
 安全保障上の観点からも意義は大きい。東アジア全体が安定すれば、沖縄の過重な基地負担も軽減されるはずだ。ぜひとも日本外交の真価を発揮してもらいたい。
 ただ、懸念材料もある。大統領時代に続き昨年7月に国後島を訪問したメドベージェフ首相が、実効支配強化の姿勢を示したことなど、ロシア国内の世論がまとまるのか、見通せない面もある。
 日本国内の世論も焦点だ。政府が「引き分け」のために四島の帰属確認や返還要求を取り下げれば、世論の反発を浴びる恐れもある。しかし、基本姿勢を堅持して局面が開けるのか、国民としても難しい判断を迫られそうだ。
 「引き分け」は遺恨なき「ノーサイド」であるべきだ。国民の理解を得るためにも、大局を見据えた粘り強い交渉が求められる。
 安倍政権の外交姿勢も問われる。対米追従の度が過ぎると、北方領土交渉にも影響しかねない。今後予定されている日ロ首脳会談では北方領土問題が進展することの意義を踏まえ、東アジアの平和と安定について日本独自の構想を示すべきだ。
 政府はこれを竹島や尖閣問題の平和的解決にもつなげる、骨太の外交戦略を描いてほしい。