TPP交渉 見切り発車は許されぬ


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 先の日米首脳会談を受け、安倍晋三首相が環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に向けた調整を加速させる姿勢を見せている。だが、TPPのメリットやデメリットで信頼できる政府試算はなく、国会論議も深まっていない。首相は拙速に政治判断をしてはならない。

 安倍首相は、自民党執行部に「聖域なき関税撤廃」の例外を容認した先の日米共同声明に関し「ぎりぎりの交渉があって日本側の主張を最大限取り入れた形であのような表現になった」と説明したようだが、これでTPP交渉参加の環境が整ったとは言えない。
 首相はオバマ米大統領の全面協力を取り付けたとアピールしたいのだろうが、例えばコメや麦、サトウキビなど具体的な品目の例外扱いが決まったわけではない。
 自民党は衆院選で農産物保護などを念頭に「聖域なき関税撤廃を前提にする限りTPP交渉参加に反対」との公約を掲げた。これを信じた農業団体が、曖昧な説明で交渉参加に納得するはずもない。
 日本医師会は、TPP参加を医療への市場原理主義の導入だと懸念。規制緩和で「混合診療の全面解禁」「株式会社参入」などが進めば、日本の誇る「国民皆保険」制度が崩壊すると警戒してきた。
 TPPの対象は労働規制や衛生・検疫、公共事業発注ルールなど21分野にもまたがる。
 こうした大変革は、かつての小泉構造改革を想起させる。そこで自民党に問いたいが、同改革の何が成功で何が失敗だったのか。格差社会を招いた構造改革への反省が不十分であるなら、自民党がいくらTPPの意義を強調しても国民は素直に納得しないだろう。
 安倍政権が交渉参加に前向きな背景には、輸出の増加などで企業活動を後押しするTPPを成長戦略に生かす思惑がある。そうであるなら、なおさら国内で産業空洞化や国民生活の疲弊を招いた政治の責任を自覚すべきだろう。
 日本は、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国、インドなどによるアジア広域自由貿易協定や、日中韓の自由貿易協定の議論も進めている。今必要なのは、両協定とTPPの整合性を含め成長アジアを日本再生の糧にする国家戦略だ。安倍首相はデメリットよりもメリットがはるかに大きいと確信できない限り、交渉参加を見切り発車すべきではない。