米歳出強制削減 現実的解決策で歩み寄れ


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 国民生活を二の次にした政党同士の意地の張り合いが深みにはまった。主権者不在の政争は、太平洋を越えても同じなのだろうか。

 米民主党政権と野党共和党の協議が決裂し、オバマ大統領は幅広い分野の歳出強制削減を発動した。日本を含めた世界経済への悪影響が懸念され、政府機関閉鎖という異常事態が生じかねない。
 民主、共和の両党指導者は「ばかげた事態」と評しているが、危機感を欠き、2月末の合意期限内に強制削減を避けられなかった責任は重い。妥協点を探る協議を加速すべきだ。
 削減の2分の1は国防費だ。国防総省は、オバマ政権が重視するアジア大平洋地域での海軍や航空機の運用を減らさざるを得なくなり、偵察・監視活動が停滞すると歳出削減にくぎを刺している。
 だが、沖縄から見ると視角が異なる。国防費の削減幅を抑えたいのなら、任務、陣容ともに駐留根拠が薄弱な在沖海兵隊の大幅削減こそ優先的に切り込んだ方がいい。
 殴り込み部隊と称される海兵隊が、敵前に上陸して反撃拠点を築く本分とも言える戦い方は、1951年の朝鮮戦争の仁川上陸作戦以来、実施されていない。
 米本国の重鎮議員や国防専門家の中にも海兵隊を時代遅れの部隊とみなす見解がある。度重なる事件・事故やオスプレイ強行配備を通して、沖縄社会との摩擦を強める海兵隊の米本土への撤収論や豪州への移転論が提起されている。
 国防費の強制削減は2013会計年度~21会計年度で約5千億ドル(約46兆7千億円)だ。既に決まっている10年間で約4870億ドルの削減と合わせて約1兆ドルに上る。
 米本国以外で唯一の海兵遠征軍を沖縄に置き続けるコストは大きい。防災・人命救助やテロ対策などを名目に、実戦部隊が東南アジアを巡回する頻度が増す在沖海兵隊を削減する方が実効性がある。
 米側が細る国防費の肩代わりを日本に要求する恐れもあるが、政府は安易に応じてはならない。
 米民主党は社会保障費削減に反対し、増税による税収増を主張している。共和党は再度の増税に強く反対し、社会保障費削減を譲らない。
 国民生活への悪影響や経済危機を人質に取った応酬は不毛だ。好調な米景気に水を差し、消費や雇用を下振れさせれば、世界経済に波及しかねない。現実的な解決策を探り、両党は歩み寄るべきだ。