マイナンバー 拙速な制度実施は危険だ

 政府は、国民一人一人に番号を割り振って納税実績や年金など社会保障の情報を一元管理するマイナンバー(共通番号制)法案を閣議決定し、国会に提出した。行政事務の効率化や手続きの簡素化が期待できるとされるが、国が個人に関する幅広い情報を握ることになり、個人情報保護の観点から非常に問題含みだ。

 利便性をみると税金の確定申告や年金の支給申請などに原則、ICカードがあれば、書類をそろえる手間が少なくなる。医療や介護を合わせた世帯ごとの自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」なども導入しやすい。制度ごとに管理されている情報が個人番号を設定することで一括把握できるからだ。
 ただし情報流出の懸念は払拭(ふっしょく)できない。政府は当初の利用範囲は「税」と「社会保障」と「災害対策」に限定されるとしているが、法施行後3年をめどに範囲拡大を検討するとしている。
 しかし同一の番号で情報が集積され、システムに接続できる人数が増加すればするほど、情報が流出する危険も高まる。社会保障番号制度を導入している米国などでは、第三者が個人番号を基に犯罪歴や信用情報を集める事例も起きている。行政の電子化や民間活用を名目に、なし崩し的に範囲を拡大すれば深刻なプライバシー侵害が起きかねない。国による住民の監視強化の懸念も払拭できない。
 なぜこの制度を作らなければならないのか。政府は今後実施される消費税増税に伴う低所得者対策として検討された「給付付き税額控除」導入のため必要だと説明する。各個人の所得を正確に把握し、それに基づいて「公平な税制」などの実現を目指すという。
 しかし政府は昨年6月の大綱で番号制を導入すれば精度は向上するが、正確な把握は困難であることを事実上認めている。導入する根拠自体が失われてはいないか。導入費用だけで2千億~3千億円と高額だ。維持費も数百億円規模で、費用対効果があるのかも疑問だ。
 内閣府が2011年11月に実施した世論調査では8割以上が内容を知らず、情報漏洩(ろうえい)などを懸念していることが分かっている。暮らしに関わる重要な制度が国民の間に十分に浸透しているとは言えない。政府は国民が納得できる説明を尽くすべきだ。拙速に制度実施に踏み切るのは危険だ。