虐待通告過去最多 強い意志で根絶目指せ


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 被害に遭った子どもたちの心の傷を思うとやりきれない。

 昨年1年間に警察が児童相談所への通告対象にした児童虐待の人数が、前年比42・1%増の1万6387人となり、統計を取り始めた2004年以降で最多だったことが警察庁のまとめで分かった。
 被害者数は8年間で17倍にも増加している。虐待に対する社会の関心の高まりが背景にあるようだが、この増加ぶりは異様だ。早期発見、通報という基本的な防止策が浸透してきたとも言えよう。しかし、虐待が見過ごされているケースも相当数あるのではないか。
 保護者の人格や生活環境なども複雑に絡む根深い問題だけに、社会全体で対策を考えていかなれば虐待防止はおぼつかないだろう。関係機関、地域、各家庭が連携し、児童虐待を根絶するという強い意志を持って取り組んでいく必要がある。
 虐待で通常イメージされるのは暴力行為などの身体的虐待だが、通告全体の約7割を占めているのは、暴言などの心理的虐待だ。その心理的虐待の65%は、児童の前で配偶者に暴力を振るう「面前DV」だという。
 恒常的な暴力や食事を与えないなどのネグレクト行為で、子どもを死亡させるといったショッキングな事件に目が行きがちだが、虐待の芽は実は身近にある。子どもの前で配偶者を罵倒するのも、児童虐待の一つだと、全ての親は心すべきだ。
 児童虐待が増加していく一方で、地域社会の監視の目を逃れ、援助を求めないまま孤立し、危うい子育てを続けている保護者もいると聞く。こうした人々に手を差し伸べるような子育て環境の改善は喫緊の課題だ。
 摘発されたケースのうち、被害に遭った人数は476人で、そのうち32人が死亡している。こうした最悪の事態は何としても回避しなければならない。一時保護や相談業務に当たる児童相談所の負担は増している。さらなる体制強化は不可欠だ。
 虐待を発見する端緒は多様だ。住民同士のネットワークをはじめ、教育・福祉・警察・医療機関がいかに連携し、いかに迅速に対応できるかが、被害防止の鍵を握る。
 虐待を受けた子どもたちのケアも必要だ。親から受けた心身の傷を癒やし、早期に立ち直れるよう万全の支援を求めたい。