TPP交渉 説明なき参加表明は暴走だ


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 いくら弁舌巧みな安倍晋三首相でも、もう口先でかわすのはやめるべきだ。反対のうねり、国民の懸念と真摯(しんし)に向き合ってもらいたい。

 JA沖縄中央会など県内29団体が11日、環太平洋連携協定(TPP)について「交渉参加表明は到底容認できない」とする緊急メッセージを採択した。東京・日比谷野外音楽堂で開かれた12日の緊急集会には、沖縄を含め全国の農業関係者ら約4千人が交渉参加反対を訴えた。
 安倍首相が、関係者のこうした「命懸け」の反対を押し切り参加表明するなどもっての外だ。安倍首相が今なすべきことは、こうした反対の声を真剣に受け止め、徹底した情報開示を行った上で、国内論議を深めていくこと以外ない。
 安倍首相は、オバマ大統領との会談によって「『聖域なき関税撤廃』が前提ではないことが明確になった」と繰り返しているが、その具体的な根拠はいまだに示されていない。一方で、会談では全品目を交渉対象とすることも約束している。つまりは、例外を勝ち取れるかは交渉次第なのだ。
 新たに交渉に参加する国に対し、不利な条件が付いていることも明らかになった。2011年に交渉参加したカナダとメキシコが、先行参加国から、既に交渉が進んでいる内容を見直すなどの再交渉要求は困難と通告されていたのだ。当然、日本もこの条件を突き付けられる可能性が高い。
 コメをはじめとする農産物という「聖域」の確保を優先する半面、攻めどころの自動車分野で米国への譲歩を余儀なくされているという実情も浮かび上がっている。
 表面化している問題は「氷山の一角」にすぎないのではないか。TPPの協議過程があまりに不透明であり、断片的な情報にとどまっている。これでは、国民は是非について理解を深めようがない。
 TPP参加となれば、サトウキビが基幹産業の沖縄は壊滅的な打撃を受ける可能性がある。農業関係者にとっては死活問題だ。農林水産業のみならず医療、保険など国民生活の各分野にまで影響が及ぶが、国民はメリット、デメリットについて明快な説明を政府から受けていない。
 こうした中で安倍首相が参加表明をすれば、それは暴走以外の何物でもない。情報開示を徹底することが先決だ。中身を十分説明せず、国民に事実上の白紙委任を求めるような進め方は納得できない。