TPP交渉容認 中身論じず公約後退か


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 玉虫色の政権公約は、結局は国民を欺くためのものだったのかと深い疑念を禁じ得ない。自民党は環太平洋連携協定(TPP)に関する対策委員会の総会を開き、安倍晋三首相の交渉参加を容認する決議を了承した。これを受け、首相は15日に交渉参加を表明する。

 昨年の衆院選で自民党は「聖域なき関税撤廃を前提とする限り交渉参加に反対」と掲げた。これに加え選挙区で「TPP断固阻止」と訴えた衆院議員は多く、TPP反対と受け止めた有権者は少なくないはずだ。
 先の日米首脳会談では「全ての物品が交渉の対象」とした上で「全ての関税を撤廃する約束を求められるものではない」との共同声明を発表した。安倍政権はこれを錦の御旗に掲げるが、日本が求める重要農産品などの“聖域”を保証するものではなく通商交渉の基本原則を確認したにすぎない。
 自民党の対策委は2月27日に設置が決まり、議論を始めてわずか2週間で決議をまとめた。容認ありきであまりに拙速にすぎる。
 決議は「政府は守るべき国益をいかに守るか明確な方針と十分な情報を国民に提示し、戦略的方針を確立すべきだ」と求めた。裏を返せば国益を自ら守る気概を欠き十分な情報提示も戦略もないまま首相に判断を丸投げしたことになる。「国家百年の計」との認識に立ちながら思考停止も甚だしく国会議員の役割放棄にも等しい。
 容認決議について菅義偉官房長官は「かんかんがくがくの議論をしても最後はまとまっていく」と民主党政権との違いを強調したが、TPPの中身を国民に説明できていない点で民主党と何ら変わらない。これで果たして公約違反でないと胸を張れるのか。
 TPPは関税・農産品に注目が集まるが、医療、保険、知的財産など21分野にまたがる。国の形を変えかねないと指摘されるが、利点や不利益など政府から具体的な説明はなく、国民的議論は圧倒的に不足している。
 国益にかなわなければ交渉から途中脱退すればよいとの言い分もあるが、国際的な信用失墜など孤立化を招く懸念が強く、現実的には離脱は困難だろう。
 「国家百年の計」に焦りは禁物だ。15日に公表予定の政府統一試算は議論のゴールではなく出発点とするのが筋だ。首相は参加表明に前のめるのでなく国民の不安と懸念の払拭(ふっしょく)にこそ注力すべきだ。