日銀総裁承認 通貨の番人の自覚と誇りを


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 日銀の次期総裁に黒田東彦アジア開発銀行総裁を充てる役員人事案が国会で承認された。黒田氏は、金融緩和を柱とする安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」推進に向け、政府と協調する姿勢を鮮明にしており、日銀史上異例の「金融緩和派」の総裁となる。

 日本経済再生に向け、デフレ脱却が最大の課題であり、政府と日銀が緊密に連携して施策を進める必要があることは論をまたない。ただ、中央銀行である日銀総裁が政府の言いなりでいいはずはない。物価の安定を図る「通貨の番人」として、日銀が独立性を保つ責務があることも黒田氏は肝に銘ずる必要がある。
 衆参両院の所信聴取で黒田氏は「デフレ脱却でやるべきことはなんでもやる」と強調し、2%の物価上昇目標を2年をめどに達成する意欲を示した。今後、満期までの期間が長い国債の購入拡大や、期限を定めずに国債などを毎月13兆円ずつ買い続ける「無期限緩和方式」を、予定の2014年から前倒しで導入することなどが検討される見通しだ。
 ただ、日銀によると1980年代後半のバブル期でも物価上昇は平均1・3%にとどまる。金融緩和さえすればデフレ脱却が早期に実現するとの過度の期待は禁物だ。インフレ目標の目的はインフレを抑制するためにあり、デフレ脱却の効果は未知数との指摘もある。
 打ち手の小づちや魔法のつえが存在しないように、大胆な金融緩和は、壮大な社会実験に終わる危険性をはらんでいることにも、われわれは留意する必要があろう。
 アベノミクスは今のところ、株高・円安の進行など好調な滑り出しを見せている。円安の進行で輸出を中心とする大手企業の収益は改善している。半面、国内の大多数を占める中小企業は資源高や燃料費高騰など影響を受けていることも見過ごしてはならない。株高も市場の期待が先走りしている面は否定できず、雇用や所得の改善など実体経済の動きは依然鈍い。
 デフレ脱却と経済再生には国際競争力や成長力の強化を促す規制改革など成長戦略が不可欠であることは指摘するまでもないだろう。
 物価上昇は単なる目安にすぎず経済成長の副次的な産物であるはずだ。こうした点も含め黒田氏には金融政策を国民や市場に分かりやすい言葉で説明する重要な役割があることも忘れないでほしい。