胆管がん労災認定 救済と再発防止に万全を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 印刷会社の従業員らに胆管がんの発症が相次いだ問題で、厚生労働省の検討会が、大阪市の印刷会社の従業員や元従業員16人を労災認定すべきだとの報告書をまとめた。厚労省は今月中にも、胆管がんとして初の労災認定をする。

 被害の訴えが各地に広がり、早期の救済と再発防止策が求められていただけに、迅速な対応は評価できる。今後は教訓を生かし、健康被害につながる化学物質の規制強化など、必要な対策を講じてほしい。
 これまで胆管がん発症の原因は特定されていなかったが、今回、印刷会社で使用していた洗浄剤に含まれる化学物質「1、2ジクロロプロパン」とほぼ断定された。
 報告書によると、同印刷会社の校正印刷部門で働く男性従業員の胆管がん罹患(りかん)率は日本人平均の1200倍に達した。16人は長期間高濃度の1、2ジクロロプロパンにさらされており「長期間の高濃度暴露が原因で発症した蓋然(がいぜん)性が極めて高い」と指摘された。
 厚労省は同時に、全国の印刷会社に1、2ジクロロプロパンを含む洗浄剤の使用を控えるよう指示しており、業者側もこれに沿い、厳重に対処するよう求めたい。
 今回労災認定された16人のうち5人が、労災申請の時効(5年)を既に過ぎていたが、検討会は因果関係が明らかになった14日の翌日を時効の起算点とした。
 賢明な判断だと思うが、因果関係特定の難しさや発症までの潜伏期間の長さなどを考えると、労災申請にそもそも時効を設けるべきかも今後検討する必要があろう。
 今回の16人以外に同社の元従業員や、宮城、福岡両県の印刷会社の従業員ら計48人が労災申請をしている。検討会が今後どう審議し、結論を出すのか注視したい。
 厚労省が昨年、全国561社の印刷会社事業所を対象に実施した調査では、局所排気装置を設置していないなど問題のある事業所が7割に上った。従業員の健康被害にあまりにも鈍感になっていないか、懸念せざるを得ない。危険な環境を十分に知らされずに従業していることも想定され、早急な改善が必要だ。
 「労災認定されるのはうれしいが、息子は帰ってこない」。2005年に27歳で胆管がんで亡くなった従業員の母はそう話した。その言葉の重みを心に刻み、救済と再発防止に万全を期すよう、国や企業に強く求めたい。