選挙無効判決 政治の怠慢は許されない


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 日本のどこに住んでいようと投票権の価値は同じ。それは民主主義国として当たり前の結論のはずだ。昨年12月の衆院選の1票の格差を問う訴訟で、広島高裁は選挙結果に「無効」を言い渡した。

 正確には、11月26日を過ぎれば無効の効力が発生するという「執行猶予付き」の判断だが、国政選挙の無効判決は戦後初めてだ。
 いくら警告しても抜本的対策に乗り出さぬ政治の怠慢に対し、是正を突き付けた判断を高く評価したい。
 今衆院選をめぐる一連の訴訟では従来の「違憲状態」から一歩踏み出し、「違憲」と断じた判決が5件に上る。今回はさらに踏み込み、ついに「無効」という司法として最高の切り札を切った。
 予兆はあった。最初の東京高裁判決は、選挙無効の請求は棄却したものの、「判決確定後一定期間経過後に無効とする判決を下すこともあり得る」と示していた。今回はそれを先取りした格好だ。
 今回の総選挙は、格差是正に向けた最低限の措置である小選挙区の「0増5減」すら実行せずに強行された。その結果、従来も「違憲状態」とされた1票の格差は2・30倍から2・43倍へと悪化した。判決は司法軽視の国会に対する強烈な不信感の表れであろう。
 従来の判決は、国会が格差是正の検討を始めさえすれば、取りあえず無効判決は回避するという構造だった。今回の判決はそんな対応を許さないものと言える。
 よく考えた判決でもある。いきなり無効とすれば有効に選ばれた議員が存在しないことになり、その間に選挙制度を決めるという別の不合理が発生してしまう。そこで、無効とするまでに時間をあげるから、国会議員が有効である間に新制度を定めてほしいというわけだ。合理的判断と言っていい。
 選挙管理委員会は上告するだろうから、判決確定はまだ先だ。とはいえ政治の対応は待ったなしである。提訴した弁護団は違憲判決を基に、国家賠償訴訟を予定しているからだ。
 仮に数百万人が請求すれば賠償額も巨額になる。国家賠償法は「故意または重大な過失」があれば公務員個人に賠償金の支払いを求めることになっている。格差を放置した国会議員個人に支払いを命じることもあり得るのだ。
 もはや怠慢は許されない。1票の平等は譲れない一線であることを、国会は強く認識してほしい。