基地返還計画 負担軽減の本質見失うな


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 他人の足を踏みつけておきながら、手に持つ物を持ってあげるというそぶりを見せられても、痛みを訴える側の苦痛は変わらない。

 日米両政府が、米軍嘉手納基地より南の5基地の返還計画を来月上旬にも明示する方向で調整している。県民の9割が反対する、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を促進する材料に用いる姿勢が露骨だ。
 基地負担軽減策の一環として示し、辺野古移設に対する沖縄側の理解を得たいという算段が透けて見えるが、県民が反対する県内移設のごり押しにほかならない。
 基地問題の最大懸案である普天間を県外・国外に出すのでなければ、沖縄の負担軽減の本質を見失う。県内移設ノーの民意を踏みつけにされた沖縄の痛みと怒りは増幅するばかりである。
 嘉手納基地より南の基地返還だけを取り上げて、「負担軽減」と言い募る安倍晋三首相らの思惑をしっかり見据えねばならない。
 仲井真弘多知事は埋め立て申請後、「県内移設は事実上、無理だ」と語気を強め、41全首長が反対の意思をあらためて示した。沖縄の強固な民意に揺らぎはない。
 こうした中、安倍首相らは本土の国民に向け、嘉手納基地より南の基地返還をことさら「負担軽減」につながると強調し、沖縄にとって望ましいことをしているという見方を植え付けようとしている。
 辺野古移設への同調圧力を強め、“沖縄包囲網”を敷こうとしているように見える。日米同盟を最優先し、容赦なく沖縄を切り捨てた首相が言及する「負担軽減」は虚飾にまみれている。
 2006年の米軍再編合意で、日米両政府は普天間飛行場の辺野古移設と在沖海兵隊のグアム移転、嘉手納より南の基地返還を「不離一体のパッケージ」と繰り返した。
 しかし、県内移設への反発が強まると、財政難にあえぐ米側の事情も踏まえ、あっさりとパッケージを切り離した。在沖海兵隊の主力の歩兵である第4海兵連隊がグアムに移る。
 海兵隊は地上戦闘部隊、航空兵力、役務支援が一体で「抑止力」を保つとされてきたが、グアム移転で地上戦闘部隊の中核を欠くことになる。航空部隊との切り離しが可能であると証明した格好だ。抑止力の虚構性が浮かび上がる。
 沖縄に基地を押し付ける論理を公然と振りかざす、日米両政府の欺瞞(ぎまん)に振り回されてはならない。