高校教科書 「軍命」記述なしは疑問/検定意見撤回が不可欠だ


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 2014年4月から高校生が使用する日本史教科書で沖縄戦時の「集団自決」(強制集団死)について、「日本軍による命令」「軍命」を明記した教科書はなかった。文部科学省が公表した教科書検定結果で分かった。

 「日本軍が強いた」「日本兵による命令」など表現を工夫した教科書もあるが、検定結果は全体的評価として、史実の正しい継承の観点から決して納得できない。
 文部科学省や教科書検定にかかわる有識者、出版社など全ての関係者に、あらためて公明正大な教科書づくりを強く求めたい。

「屈辱の日」欠落

 1952年4月28日に発効したサンフランシスコ講和条約については、日本史全9冊が「独立国としての主権を回復した日」として触れたが、「4・28」を日本から分離された「屈辱の日」と位置付ける沖縄側の視点での記述はなく、これも不満が残る内容だ。
 沖縄戦や米軍統治で沖縄住民が虐げられた歴史事実を、生徒が理解不能な曖昧な表現で記述したり、一面的な見方で記述したりする教科書がまかり通ってはならない。
 06年度検定意見に基づく高校教科書検定で、沖縄戦の「集団自決」記述から日本軍の関与が削除されたことに抗議し、07年9月29日に超党派の「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が開かれた。
 以来、県内では日本軍強制に関する記述復活と「軍の強制を示す表現」を削除した06年度検定意見の撤回を求める意見が根強いが、今回、いずれも実現しなかった。
 実教出版、山川出版社、清水書院、東京書籍の4社9冊のうち、4社8冊が沖縄戦の「集団自決」を取り上げた。このうち、新たに「日本兵による命令によっても集団自決をとげた」という記述を加えた清水書院「日本史B」をはじめ6冊が現行本より踏み込んだ。文科省が06年度検定意見を堅持する中、教科書会社の編集者、執筆者の努力は一定の評価をしたい。
 だが、強い違和感も覚える。「集団自決」への軍命の有無が争われた「岩波・大江裁判」で、11年4月22日、最高裁で軍関与を認める判決が確定した。本来なら教科書会社は「軍命」に否定的な検定意見に風穴を開けるべく、「軍命」の記述を含め申請すべきだった。
 同裁判の二審では沖縄戦体験者の多くが他界する中、60年以上の経過や軍命が口頭で行われ命令書の類いが廃棄されたとみられる事情を勘案し、オーラル・ヒストリー(口述証言)を証拠として採用する画期的な判断も下した。

司法判断順守を

 二審は最新の沖縄戦研究も踏まえ、座間味、渡嘉敷の「集団自決」について「軍官民共生共死の一体化」方針の下、広い意味で「日本軍の強制ないし命令と評価する見解もあり得る」とも判断した。
 文科省は今回の検定結果公表にあたり「裁判と検定は無関係」としたが、司法判断を順守すべきだ。
 日本の独立に伴う沖縄分離の背景について、実教出版「高校日本史B」のように、琉球諸島の長期軍事占領を昭和天皇が希望した、いわゆる「天皇メッセージ」に言及した教科書もあるが、踏み込んだ試みは一部にとどまった。
 日本史や政治・経済では普天間飛行場返還・移設問題や日米地位協定など沖縄の米軍基地問題が多く取り上げられたが、これも記述の踏み込み具合にばらつきがあった。
 地理と政治・経済では尖閣問題で、日本政府の認識と異なり、領土問題があると受け止められる表現には、「誤解を招く」などの検定意見が付された。
 こうした対応が国際理解を妨げる要因になっては本末転倒だ。関係国との立場の違いを明確にし、多角的に学ぶことが世界で通用する人材の育成に不可欠ではないか。
 司法判断に反する偏った歴史観で教科書づくりが進められては、国民の利益も日本の国際的信用も損ないかねない。教科書検定制度は多角的に見直されるべきだ。この国の民主主義の成熟度が問われる。