古酒の郷 泡盛ブランド構築の切り札


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 長期保存で熟成を重ねるほど、まろやかさと甘みがより増していく泡盛の最大の特性を生かした本格的な取り組みが始動した。

 県内の泡盛製造43社が共同出資する協同組合「琉球泡盛古酒(クース)の郷(さと)」の貯蔵施設の第1棟と管理棟がうるま市の国際物流拠点産業集積地域内に完成した。
 生産した古酒は、泡盛の販路拡大戦略の中核に位置付けられる。業界を挙げて琉球泡盛の高付加価値化を図り、本格焼酎との差別化やブランド構築に取り組む意義は大きい。
 特に昨年3月に発覚した古酒の表示違反は、消費者の信頼を裏切り、泡盛のブランドイメージを大きく揺るがせた。古酒の郷構想は業界立て直しの切り札といえる。
 本土市場では、輸送コストがかさむ泡盛は安価な焼酎に価格面で太刀打ちできず、県外出荷量は伸び悩んでいるのが実情だ。古酒化の促進など品質で勝負するしかないが、泡盛業界は経営体力の弱い中小零細企業も多く、単独による貯蔵施設整備は困難だった。
 古酒の郷では、1棟に50キロリットルのステンレスタンク10基を設置。10年計画で計5棟を建設し、各社から集荷する総貯蔵量は2500キロリットルになる。買い取り方式と預かり方式の併用型で、組合員企業の経営安定化の担保機能も担う。2012年の泡盛製成量は約2万1769キロリットルであり、その1割強を占める同施設の役割の大きさが分かる。
 管理棟には、泡盛が熟成する仕組みの解明や、古酒特有の香りや成分を分析する琉球大農学部の「サテライト研究室」も設置された。市場拡大やブランド確立に向け、科学的な裏付けは不可欠であり、産官学の連携強化は時宜を得た取り組みだ。今後の画期的な研究成果に期待したい。
 将来的には、泡盛文化を内外に発信する「泡盛博物館」の建設も計画されている。戦前は100年物、200年物の古酒が存在したとされ、江戸上りの献上品や「黒船」ペリー艦隊の接遇にも用いられた。泡盛を寝かせて育てる古酒造りは、琉球が誇る伝統文化であり、歴史を紡ぐ作業そのものだ。博物館建設の早期実現も望みたい。
 こうしてみると、泡盛の出荷拡大は単なる産業振興にとどまらない。関係者にはそれこそ100年後、200年後を見据えた壮大な取り組みを期待したい。