自衛官訓練死訴訟 人権軽視の風潮改めよ


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 2006年、札幌市の陸上自衛隊真駒内基地で徒手格闘訓練中に死亡した県出身者の自衛官、島袋英吉さん=当時(20)=の両親が国を相手に損害賠償を求めていた訴訟で、札幌地裁は国に約6500万円を支払うよう命じた。

 徒手格闘訓練は自衛隊独自の格闘技で頭や胴に防具を、拳にグローブを着けてパンチや蹴り、投げ技、絞め技で闘う。判決は、その訓練について本来的に身体や生命に一定の危険があると指摘した。訓練とはいえ、1人の命を奪った。訓練に関わった指導教官の注意義務違反を認め、賠償を命じた判決を評価したい。
 自衛隊ではほかにもいじめ、セクハラなどの訴訟が全国で相次いでいる。「組織の隠蔽(いんぺい)体質」への批判は強く、階級社会や閉鎖的空間では自浄能力など期待できまい。
 第三者を主体に検証し、抜本的防止策を講じ、組織体質を変えるべきだ。
 島袋さんは亡くなる約2週間前に訓練を始めたばかりで、受け身の訓練は3回のみだった。指導教官も受け身の不十分さを認識しており、それで危険な訓練を強いたのは異常だ。結果的に死に追いやったと言われても仕方あるまい。
 情報開示にも疑問がある。遺族が請求した教育訓練実施に関する文書や島袋さんの訓練の検定記録簿は、国側が「国の安全が害される」と提出を拒否した。隊員個々の能力などが知られる恐れがあると言うが、これが本当に国の安全に直結する情報か。詭弁(きべん)だろう。
 島袋さんの遺体には肋骨(ろっこつ)骨折、肝臓損傷など11カ所の損傷があった。「訓練を超えたいじめやしごきがあった」。裁判を通して両親はこう訴えていた。
 判決は訓練を超えた暴力は認めなかったが、それを疑う素地が自衛隊にはある。08年には海上自衛隊で1人で15人相手の徒手格闘訓練をさせられた3等海曹が死亡した。海自は「訓練中の事故」と広報したが、15人を相手にしたことは公表していなかった。
 航空自衛隊浜松基地では県出身の3等空曹の自殺をめぐり、静岡地裁が自殺とパワハラとの因果関係を認めた。
 閉鎖的な組織の中で理不尽な暴力、いじめなど人権を軽視する行為、風潮がはびこっているのではないか。自衛隊の組織の在り方に対し、国民が厳しい視線を浴びせていることを自覚すべきだ。過ちを繰り返してはならない。