新金融緩和策 実体経済の回復につなげよ


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 日銀が年2%の物価上昇目標を2年で達成するための大規模な金融緩和を決めた。市場に流すお金の総額を2年間で2倍に増やす。「量・質ともに次元の違う金融緩和」に踏み出す黒田東彦(はるひこ)新総裁が目指すのは、15年間にわたって物価が下がり続けたデフレからの脱却だが、実体経済の回復につなげられるかどうかが最も重要だ。

 世の中に出回る現金と銀行が日銀に預けているお金を合わせたマネタリーベースの新目標を設定した。資金供給を1年間で60~70兆円ずつ増やし残高は昨年末の138兆円から14年末には270兆円に膨らむ。
 長期国債に加え上場投資信託(ETF)などのリスク資産も倍増させる。大胆な緩和策を一斉に実施して住宅ローンや借入金利の低下を促し、投資を活発化させることを期待している。国債などの保有残高や購入ペースを分かりやすく示すことで、消費者や企業の心理に「景気は良くなり物価も上昇する」と働き掛ける狙いもある。
 ただ日銀は過去にも量的緩和を実施している。2001年から06年には残高目標を最終的に35兆円に拡大。白川方明(まさあき)前総裁も10年秋から「包括緩和」を導入した。だが大量のお金が企業や個人に回らず、デフレは脱却できなかった。銀行の貸し出し姿勢は慎重で、民間の資金需要は低迷したままだ。
 新政策の発表を受けて長期金利は過去最低を記録。円安、株高も進むなど市場は鋭く反応しているが、今後は大規模緩和の副作用にも十分な注意が必要だ。
 日銀は今後、国債を毎月7兆円買い入れるが、これは国の発行額の実に7割に当たる。新総裁は「財政ファイナンス(赤字の穴埋め)ではない」との立場だが、市場の信認が崩れれば一気に長期金利が上昇(国債価格は下落)しかねない。市場への過剰な資金供給は不動産バブルを招きかねないという側面もある。2%目標の実現性は専門家でも意見が分かれるが、円安による輸入価格の上昇で、すでに電気料金や食品などが値上がりしている。物価だけが上昇し、賃金などの実体経済の改善が追い付かなければ家計がますます厳しくなるだけだ。
 雇用拡大や賃金上昇などを促す規制緩和や産業創出などの成長戦略を並行して実行していかなければならない。緩和のリスクに細心の注意を払い、早期に成果を出すことが新総裁に求められている。