八重山教科書問題 竹富町教委の判断尊重を


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 きょうから新学期。児童・生徒は新しい教科書の匂いを感じながら、勉学への意欲を燃やすことだろう。竹富町の生徒たちもぜひ、そうあってほしいと願う。

 しかし、中学で使用する公民教科書について、竹富町教育委員会が八重山採択地区協議会の答申した育鵬社版ではなく東京書籍版を独自に採択し、国の無償配布対象から外されている問題は未決着のままだ。
 このため、竹富町の中学には町教委の判断に基づいて、公民は東京書籍版がいったんは配布されるようだ。昨年度同様に無償配布の対象とならずに寄付で賄うことになりそうだが、文部科学省がどう対応するかが注目される。
 文科省は無償配布されない状態は教科書無償措置法(1963年制定)に違反しているとして、育鵬社版の採択に向けて竹富町教委と県教育庁への指導を強めている。確かに解消すべき状態だが、しかし育鵬社版の押し付けが根本的な解決につながるとは思えない。
 教科書無償法は、広域の採択地区の同一教科書であることを無償の要件としている。ただ、広域採択にしている理由は、教科書配布の効率性などを確保するためでもあると理解されている。
 立法の趣旨はあくまで、憲法の精神にのっとって、教科書を無償配布することで子どもたちの教育を受ける権利を保障することであり、広域採択がこれを上回って尊重されては本末転倒である。
 そもそも市町村、あるいは学校単位で使用する教科書を決められるようにすべきだなど、広域採択の改善の必要性はかねて指摘されている。一方で、地方行政教育法が定める各教委の採択権も尊重されなければならない。
 文科省はこうした事情を総合的に勘案し、憲法の精神を尊重して独自採択であっても無償配布できる方法を模索すべきだ。無償配布できない異常事態を、広域採択を理由に育鵬社版を強要することで解決しようとすれば、学校現場の混乱を招く。
 文科省は拙速を避け、これを契機に法的矛盾の解消も含め、教科書採択の仕組みの見直しを本格検討すべきだ。そして、今回は竹富町教委の判断を尊重し、無償配布も検討しながら4年に1度の教科書採択の次のタイミングまでに環境整備を図り、次回こそ疑問や混乱を残さないようにする。これが問題解決の筋道ではないか。