基地返還の遅延 人道に反する負担温存策だ


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 嘉手納基地より南の六つの米軍基地の返還・統合計画の虚飾をまとった内実が、返還基地を抱えたり、機能を移される市町村長らの反応から浮かび上がってきた。

 「返還・統合」に名を借りた新たな基地負担の嘉手納以北への集中・温存である。基地被害との決別を望む民意に背を向けた、人道に反する施策だ。県内移設条件付き返還の問題点が噴出している。
 遊休化が指摘されている那覇軍港の移設時期は浦添市への移設条件が付いたために、「2028年度またはその後」とされた。1974年の日米合意から最短でも54年を要する。履行に半世紀以上かかる国家間の約束事は基地問題以外にあるまい。異常さが際立つ。
 那覇軍港が象徴的に示すように、明記された六つの基地の返還時期は総じて遅く、実現の担保を伴わない。政治情勢で簡単に先送りされる恐れも拭えない。
 来県した小野寺五典防衛相が、返還・統合計画を説明した。まず、沖縄に集中する米軍専用基地の割合は73・8%から73・1%と、わずか0・7%の縮小にとどまることが正式に示された。普天間飛行場の名護市辺野古移設だけが先行した場合、縮小幅は0・3%だ。
 「本土の方は基地返還が相当進むと思うだろうが、良かったとは口が裂けても言えない」
 翁長雄志那覇市長の反応は、基地返還計画の実現性の乏しさに強い不信感を抱く大部分の県民の受け止め方を代弁していよう。
 最大懸案である普天間返還まで早くても9年かかることに、仲井真弘多知事は「その間、固定化されるのと一緒だ」と突き放した。
 最低でも9年間、危険機種オスプレイが普天間飛行場を拠点に沖縄の空を飛び交うことに、不安を抱かない県民はいまい。もし、墜落などの重大事故が起きた場合、その全責任を日本政府が負わねばならないと警告しておきたい。
 普天間を含め、返還対象の基地面積の約8割は、県内へのたらい回しだ。牧港補給地区の倉庫群の移設先に挙がった沖縄、嘉手納、読谷の首長は、新たな基地負担は受け入れられないとの認識をはっきり表明した。グアムなどに主力の歩兵部隊が移る海兵隊の駐屯基地がそのまま残ることへの説明もなされていない。
 安倍政権がなすべきは、在沖基地の閉鎖、県外・国外への移設だ。それこそが本物の負担軽減である。