京都府立医大手術 組織的な欠陥究明を


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 京都府立医大の松原弘明元教授のチームが動物実験をしないまま、急性心筋梗塞の患者に患者自身の幹細胞を移植する手術をしていた。

 移植手術は臨床試験として実施されている。臨床試験をする場合、動物実験で安全性と有効性を確認することが大前提だ。動物実験なしに実施したとなれば、人体実験をしたと批判されても仕方ない。
 手術が実施された2004年2月当時、同チームは事前にブタを使った動物実験で治療の有効性を調べたと発表していた。うその説明をしながら「世界初」の手術成功と誇らしげにアピールした。医師としての功名心が優先され、倫理性が置き去りにされたというほかない。
 それだけではない。松原元教授が関わった論文14件で改ざんやねつ造データの使い回しなどの不正があったことが大学の調査報告書で判明した。
 うち5本の論文が手術の安全性を審査する学内倫理委員会に参考資料で提出されていた。虚偽にまみれた論文を手術許可の判断材料に使っており、極めて悪質だ。
 同チームに責任の一端があるのは間違いないが、大学の倫理委員会にも問題がある。動物実験をしていなかった事実を見抜けぬまま倫理委員会は手術実施にお墨付きを与えてしまった。
 大学側は主な承認理由としてドイツや韓国で類似の研究が先行して実施され、問題が起きていないことを挙げる。しかし幹細胞を濃縮するなど手法が異なっている。先行事例は数が少なく、しかも違う研究を根拠に安全性を保証したのなら、倫理委の審議は不十分と言わざるを得ない。
 幹細胞研究は臨床への応用に期待が大きい。一方で無秩序に進めれば予期せぬ問題が起きる恐れがある。だからこそ政府は06年に人の幹細胞を使った臨床研究を行う際に従うべき指針をまとめている。さらに厚生労働省は研究計画を審査する地域ごとの倫理委を設けることなどを盛り込んだ新法を近く国会に提出する見込みだ。
 病気やけがで機能を失った臓器や組織を修復する再生医療として幹細胞研究は重要な役割を担っている。今回の事態はその研究の信頼性をも揺るがした意味でも深刻だ。大学側は手術チームだけの責任に矮(わい)小化せず、組織として何が問題だったのかという抜本的な検証と究明を進めるべきだ。