原発新基準 廃炉勧告と受け止めよ


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 原子力規制委員会(田中俊一委員長)は、東京電力福島第1原発事故を踏まえ、過酷事故や地震、津波、火災などの対策を盛り込んだ新しい原発の規制基準案をまとめた。

 「世界レベルに負けない基準になった」と田中委員長が強調するように、基準に合致した安全対策を実施するには、設備の改修や新設など工期が長期化し、費用も膨らむのは避けられない。電力各社は、老朽化した原発に対する「廃炉勧告」として真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
 基準案は、津波対策として原発ごとに最大規模の「基準津波」を設置し、それに耐える防潮堤の設置などを要求。地震対策では、活断層上の原子炉設置を禁止し、活断層の認定をこれまでの13万年前以降から40万年前以降に対象を拡大して判断するとした。
 活断層が縦横に走る地震列島の日本では、海外と同レベルの安全性を確保するためには、規制が厳しくなるのは当然の帰結だ。裏返せば、これまでは原発事業をめぐる政官業の癒着により、いかに安全規制が骨抜きにされていたかの証明とも言えよう。
 新基準にも懸念材料がある。テロや大規模な自然災害などに備えた緊急時制御室などを含む「特定安全施設」の設置など、一部の対策について5年の猶予期間を認めた点だ。その間、事故や災害が起こらないと誰が保証できるのか、科学的な根拠に乏しいと指摘せざるを得ない。
 既存原発にも最新の安全対策を義務付ける「バックフィット制度」を最大の目玉とするならば猶予期間などを設けず対策を徹底すべきだ。厳格な運用を求めたい。
 規制委は、11日から30日間、国民から意見を公募した上で正式に新基準を決定し、7月18日までに施行される。沖縄電力を除く電力各社は、火力発電の燃料費が膨らみ、経営を圧迫しているとして、原発の再稼働を急ぐ構えだが、目先の利益にとらわれるあまり、国民への説明責任をおろそかにしてはならない。
 電力9社の原発は運転していない状態でも、維持管理費だけで年間約1兆2千億円かかり、家庭や企業が電気料金で負担する。今後、安全対策に要する巨額費用が料金に転嫁されるのは必至だ。
 原発の安全神話とともに、「原発は安上がり」という神話も崩壊したことを忘れてはならない。