憲法96条改正 権力の専制化を危惧する


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 国会への憲法改正の発議要件を緩和する96条改正が、夏の参院選を前に政治日程に上る可能性が出てきた。自民党憲法改正推進本部の保利耕輔本部長が今国会提出の可能性に言及している。

 9日に会談した安倍晋三首相と日本維新共同代表の橋下徹大阪市長は、発議要件を現行の衆参両院議員の「3分の2」以上の賛成から過半数の賛成に緩和すべきとの認識で一致したとされる。
 しかし、一部改正では済まず、憲法の全面改正の突破口となる大ごとだ。性急な国会上程には反対だ。
 政治権力の専制化や政治の恣意(しい)的支配を制限する。これが立憲主義の憲法の核心で、日本国憲法もその流れをくむ。
 憲法96条は、改憲は衆参両院とも総員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、承認には「国民投票で過半数の賛成が必要」と定める。改正のハードルが高い日本国憲法は「硬性憲法」と言われる。改正手続きが厳格なのは、米国をはじめ世界の多数派とされる。
 安倍首相は国会で「憲法を国民に取り戻すため(改憲の発議要件を国会議員の)3分の2以上から過半数にする」と、96条改正の先行実施に意欲を表明している。
 民主党は「どのような憲法を目指すかという本質の議論を飛ばし、全て変えられるように96条を改正するのは乱暴だ」(細野豪志幹事長)と反論。筋の通った指摘だ。
 宿願である改憲を通常の法改正と同様にやりやすくする。これが首相の狙いだろう。当然、憲法9条を含む抜本改正が視野にある。
 96条改正の先行実施には、改憲派の憲法学者の間からも「立憲主義を無視した邪道だ」(小林節・慶応大教授=13日付東京新聞)といった批判が出ている。
 現行憲法のどこに支障があるのか。権力を縛る立憲主義に逆行し、国民の人権が脅かされないか。発議要件を緩和し政権交代の度に改憲を繰り返さないか。疑問が尽きない。
 全面改正への環境整備となる96条改正の先行実施に、国民的合意があるとは到底思えない。
 改憲を主張する維新の会は綱領で「占領憲法を大幅に改正する」と打ち出したが、具体案は持ち合わせていない。前のめりに改憲を進める状況ではなかろう。
 選挙で信を問う前に、権力の専制化を許さない憲法の在り方について、国民的な議論が不可欠だ。