腎移植で死亡 原因究明と再発防止策急げ


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 浦添市の八重瀬会同仁病院で生体腎移植の手術中に提供者の女性が死亡した。国内ではこれまで約2万2千件の生体腎移植が実施されているが、提供者が死亡した事例はこれが初めてだ。起きてはいけない事態が県内で最初に発生したことは極めて残念だ。

 腎機能が低下した腎臓病患者は週3回通院し、毎回4~5時間の人工透析を受けなければならない。日々の生活で大きな負担が生じている。このため治療法として、親族らから二つある腎臓のうち一つの提供を受けて移植する生体腎移植が日本で1960年代以降広まった。
 日本透析医学会によると2011年末時点で県内の人工透析を受けている患者は4208人で、人口比では全国上位だ。成功すれば普通の人と同じように生活が送れる生体腎移植は県内患者にとっても大切な治療法だ。今回の死亡で腎臓提供をためらう人が増えるとすれば深刻な問題だ。そのためにも徹底的な原因究明が必要だ。
 国際移植学会は2008年に「イスタンブール宣言」を採択した。その中で「生体ドナー(提供者)の健康を損なうことは決して正当化されない。生体ドナーによる臓器移植における成功とは、レシピエント(移植される患者)とドナーの両方が順調な経過をたどることを意味する」とある。今回の事態は宣言の理念にも反しており、提供者が安心した気持ちで手術を受けられるための具体的な再発防止策を作る必要がある。
 移植には生体以外にも脳死での臓器提供による方法がある。1997年の臓器移植法から今年4月までの16年間で、脳死による腎臓移植は全国でわずか270件にとどまっている。県内の脳死による移植希望者は13年3月末現在で264人が登録している。希望者全員の移植が実現するには厳しい状況が続いている。脳死による移植医療が停滞している現状をみると、生体腎移植は患者にとって健康回復の望みの綱だ。
 今回の死亡は腎臓を取り出す経路を確保するために、執刀医が腹部に入れた手を抜く際に大量出血したことが原因だ。執刀したのは生体腎移植の経験が豊富な医師だ。現時点で病院側は大量出血した理由を解明できていない。今後設置する第三者委員会で徹底的な原因究明と二度と同じことが起きないよう抜本的な再発防止策を講じてほしい。