TPP交渉合流へ 「撤退」の道は閉ざすな


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 環太平洋連携協定(TPP)の交渉に参加する11カ国が、日本の交渉参加を承認することを正式に表明した。90日間の米国の議会承認手続きを経て、日本は7月下旬に交渉に合流する見通しだ。

 国家百年の計ともいわれたこの問題は拙速に拙速を重ね、国民的議論も経ないまま交渉参加が決まった。そのことにまず、強い遺憾の意を示さなければならない。
 政府は国益が守れないと判断した場合は交渉から撤退すると言明しているが、果たしてその姿勢を本当に堅持できるのか。これまでの事前協議などを見ると、甚だ心もとない。
 TPP交渉は秘密主義で進み、交渉の過程で情報がほとんど公表されない。国民はまさに、中身の分からない玉手箱を抱えた状態であり、このままでは「開けてびっくり」の事態になりかねない。
 交渉参加の先行11カ国は年内の基本ルール策定を目指して議論を加速させている。その中に日本は途中から加わることになる。交渉に参加しなければ日本の立場も主張できないと政府は説明してきたが、既に固まった内容には後発国は異議を唱えることはできず、不利な立場にあるのは否めない。
 交渉対象21分野のうち、日本は強みを持つ工業品の関税撤廃などで主張を強め、国益の確保を図る構えだが、農業分野などでは厳しい交渉が予想される。
 コメや砂糖などの重要農産品が守られる確証は持てないままだ。国民皆保険制度は維持できるのか、食の安全は大丈夫なのかなど、懸念材料はあまりにも多い。
 実際、日本は米国との事前協議でも自動車や保険などで譲歩し、交渉参加決定の大詰めの段階でもニュージーランドやカナダと自動車や農業で協議は難航した。
 安全保障同様に、日本政府の米国依存の交渉姿勢にも疑問や不安が湧く。このままでは交渉からの撤退という最後のカードを切ることにも、躊躇(ちゅうちょ)するのではないかと危惧する。
 しかし、不本意な形で妥結しては国民生活への影響は深刻だ。サトウキビなど県内農業を壊滅させるような譲歩は断じて容認できない。勇気ある撤退の道は決して閉ざしてはならない。
 TPP参加で「アジアの成長を取り込む」など聞こえはいいが、米国主導の交渉に取り込まれているのが実情ではないか。政府はいま一度、国民の声を聞くべきだ。