准教授除外要求 思想信条の自由を尊重せよ


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 琉球大学教育学部と教育支援協定を結んでいる石垣市教育委員会の玉津博克教育長が、同大教育学部に対し「市教委との信頼を損ねる活動を行う関係者を協定事業の業務から外していただきたい」と要求していた。

 名指しこそしていないが「関係者」とは、八重山教科書問題をめぐり市教委とは逆の見解を示している同大准教授のことだ。これに対し同大教育学部教授会は「市教委が指摘する(信頼関係を損ねる活動を行う)ような人物はいない」などとする回答案を確認した。
 「協定事業」とは、石垣市の児童生徒の学びと育ちを支援するため、琉大と石垣市の小中学校教諭が連携・協力して行う教育実践研究のことだ。井上講四教育学部長が指摘するように「個人の思想、信条や行動は協定とは別」である。
 教育委員会制度は、戦前の軍国主義教育が戦争への道を進む原動力の一つになってしまった反省を踏まえて設計された。政治と一線を画して中立性を保ち、民主化、地方分権化を目指した。
 その趣旨からすれば、教育委員会は、何よりも個人の思想、信条の自由を尊重しなければならないはずだ。
 今回の石垣市教育委員会の要求は、中学教科書の選定をめぐる政治的思惑を感じさせ、個人の思想、信条の自由を侵害する恐れがあり、現行の教育委員会制度の趣旨にも反する。
 教育委員会の意向に反対する者を排除し、賛成する者を「いい教師」とするようであれば、戦前の教育へ逆戻りではないか。
 「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍晋三首相の登場以来、教育行政への政治介入が強まりつつある。
 教育改革に強い意欲を示す首相の意向を受けて設置された、教育再生実行会議は、現行の教育委員会制度の「改革」を提言した。
 教育長は自治体の首長が任命し、教育長に権限を集中させる。地方教育行政に対して「最終的には国が是正・改善の指示を行えるようにする」と明記している。
 今回の石垣市教委の琉大への要求は的外れだ。だが、教育再生実行会議の提言通り制度設計が進めば、教育がますます時の政治に左右されかねない。戦後教育が目指した教育行政の分権化に逆行し中央集権化が進むことを危惧する。