日台漁獲量協議 頭越しは認められない


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 台湾側の漁場を拡大し、県内漁業者に不利となる日台漁業協定について、仲井真弘多知事と県内漁業団体代表が見直しを求めたが、菅義偉官房長官は「見直しは難しい」と応じない姿勢を見せた。どこまで政府は沖縄を踏みつけにすれば気が済むのだろう。

 政府は29、30日、協定を見直さないまま、日台漁業委員会を開き、漁獲量など具体的な取り決めを協議するようだ。県の要望に聞く耳を持たずに物事を進めることは許されない。
 締結された協定は日本が認めてこなかった台湾による尖閣諸島の海域を含む境界線「暫定執法線」を追認した。それだけではない。先島諸島北側部分の一部が執法線より南にはみ出す形で台湾側に操業を認めた。久米島西方の一部も同様だ。
 さらに漁業団体が求めていた久米島西方で南北に延びる東経126度上の執法線の境界線を西側に70分移動してほしいとの要望も考慮されることなく無視された。漁業団体が要請文で「県下漁業者の意向に全く反するものであり、到底容認できるものではなく、強い憤りを禁じ得ない」と抗議するのは無理もない。
 林芳正農水相は協定締結前の2月、漁業団体の要請に「地元の漁業者の頭越しに決めることはない」と話した。しかし実際は「地元の要望を無視し、頭越しに協定を結んだ」(仲井真知事)に等しい。
 なぜこうも協定締結を急いだのか。尖閣諸島をめぐり、中国と台湾の“共闘”を防ぐため、漁業協定の調印を急いだ日本が台湾に歩み寄ったとしか思えない。水産庁の資源管理部長らは八重山漁協への説明の場で「後ろから早く(締結)しろと叱られていた」と説明している。水産資源保護の側面より官邸主導による政治決着を優先した印象が強い。
 加藤勝信官房副長官は県議団の要請に対し、協定内容について「結果的に不十分だった部分があるかもしれない」と陳謝している。見切り発車で協定を締結し、その結果、沖縄の漁民が犠牲を被ることは断じてあってはならない。
 仲井真知事らは日台漁業委員会への県内関係者の参加を求めている。当然だろう。政府はこうした沖縄県側の声に真摯(しんし)に耳を傾け、県内漁業者の利益を最大限守る形で協定を一から見直すべきだ。頭越しは許されない。