朝鮮半島情勢 緊張緩和の道を閉ざすな


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 朝鮮半島情勢が再び「危険水域」に突入したと強い危惧を抱かざるを得ない。

 韓国が、北朝鮮と唯一維持してきた共同事業の開城(ケソン)工業団地から関係者の撤収を決め、運用が停止した。27日には団地にとどまっていた176人のうち126人が帰還し、韓国は残る50人の帰還も決めた。
 南北を辛うじてつなぎ止めていた共同事業が風前のともしびであり、このままでは両国の経済交流が完全に途絶えかねない。関係断絶という最悪の事態を回避するためにも、両国は報復的な対抗措置を直ちにやめ、今こそ自制的な対応を心掛けてもらいたい。
 そもそも今回の危機も、北朝鮮の近隣諸国に対する威嚇が発端だ。3月上旬、3回目の核実験に対する国連安全保障理事会の制裁強化決議採択が間近と報じられた直後から、弾道ミサイルを発射するとする挑発行動が始まった。
 北朝鮮は、韓国国防相が韓国側関係者が開城で人質になった場合の軍事措置に言及したことを口実に非難を強め、今月8日に同団地の稼働中断を発表。このため、進出企業に取引中止の動きが出たり、団地に残る韓国側関係者の食料事情が悪化したりしていた。
 韓国側は事態を打開するため、団地の操業正常化問題を扱う南北会談の開催を求めたが、北朝鮮は26日に拒否。同日夕に韓国は関係者の撤収を決めていた。
 韓国の朴槿恵(パククネ)政権は対話による打開を試みたが、通じないと見るや強硬策に転じた格好だ。ただ、南北の交易額の99・5%を占める同団地からの撤収は、緊張緩和の最終手段を失いかねない危険な賭けにも映る。
 一方、北朝鮮にとっては、開城工業団地には約5万3千人の北朝鮮労働者が働いており、操業中断は自分で自分の首を絞める暴挙と言うほかない。
 せめてもの救いは、北朝鮮側が挑発を繰り返しながらも、工場団地の閉鎖断行は明言していないことだ。完全閉鎖ともなれば、対話の糸口が完全に閉ざされかねないからだ。
 北朝鮮は自ら危機を演出し、何らかの見返りを得る「瀬戸際外交」を繰り返してきたが、それは国際社会から自らを孤立させ何の利益もないと悟るべきだ。威嚇や挑発ではなく国際協調こそが国家再建の近道と自覚してもらいたい。