猪瀬氏失言 東京招致の意義問い直せ


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 国際社会の日本への信頼や国益を損ないかねない重大な発言だ。

 東京都の猪瀬直樹知事が4月中旬、米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「イスラム教国が共有するのはアラー(神)だけで、互いにけんかしており、階級がある」などと述べ、2020年夏季五輪招致のライバル、イスタンブール(トルコ)を批判する趣旨の発言をしたことだ。
 国際オリンピック委員会(IOC)は立候補都市の行動規範の第14条で「他都市のイメージを傷つける行為や、不利となる発言、記述を慎まなければならない。他都市との比較も禁じる」と規定している。
 猪瀬氏は、この規範を承知しながら「平均寿命は女性が85歳、男性は80歳で、日本社会にいかにストレスが少ないかを示している。トルコの人々も長生きしたいなら、日本でわれわれが持つような文化をつくるべきだ。若者が多くても、若いうちに死んだらあまり意味がない」とも述べた。
 これが日本を代表する顔の一人、東京都知事の発言か。何と傲慢(ごうまん)な態度だろう。自国文化の優越性を誇示するあまり、異なる民族、文化への敬意を欠くとは常識を疑う。
 IOC調査による立候補都市の開催支持率はことし3月時点で東京70%、マドリード(スペイン)76%、イスタンブール83%という。
 東京招致への支持率が他都市と比べて低いのは、東京開催の意義が不明確、浸透していないとの指摘が各方面から絶えない。元五輪日本代表を動員しての招致に熱心だが、国民の間では景気回復や震災復興が途上にある現実を見据え、五輪開催に希望を託すか復興にエネルギーを注ぐべきか、二律背反の思いを抱える人が少なくない。
 政治には、こうした国民の思いに応える説明責任があるはずだ。
 猪瀬氏は当初、同紙への責任転嫁とも取れる弁明をしていたが、30日に「不適切な発言で、訂正したい。イスラム圏の方に誤解を招く表現で申し訳なかった」と発言を撤回し、全面的に謝罪した。
 謝罪は当然だが、同時に今回の失言は国民が東京招致について踏みとどまって考えるチャンスにもなろう。不規則発言の意味を問い直すと同時に、五輪の是非について国民的議論を求めたい。
 猪瀬氏も「平和の祭典」と言われる五輪の今日的意義をどう考えるのか、丁寧に語るべきだ。