富士山世界遺産へ 活用と保全の調和図ろう


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 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)は「富士山」(山梨県、静岡県)を条件付きで世界文化遺産に登録するよう勧告した。6月にカンボジアで開かれるユネスコ世界遺産委員会で、正式に登録が決まる見通しだ。

 現在日本には、文化遺産12、自然遺産4、合計16の世界遺産がある。日本の代表的な名所である富士山が、人類の宝物として新たに加わることの意義は大きい。心から喜びたい。
 イコモスは、富士山は信仰や芸術の山として「日本の国家的な象徴だが、その影響は日本をはるかに超えて及ぶ」と評価した。
 一方で、さらなる観光客の増加や開発への懸念を示し、来訪者対策や登山道の保全手法を報告することも求めている。そのことも重く受け止める必要がある。
 富士山はもともと世界自然遺産への登録を目指したが、ごみの不法投棄問題などから断念した経緯がある。文化遺産としての再挑戦で、登録9合目まで来たわけだ。イコモスの勧告は、このような環境問題の解決が不可欠と厳しい課題を突き付けたとも言える。
 世界自然遺産に登録されている小笠原諸島で昨年3月、絶滅危惧種を含む樹木の枝が大量に折られるなど、観光客の増加に伴う生態系への影響が広がっている。
 このため環境省は、国内四つの世界自然遺産について、観光客の増加による生態系への影響調査を進めることにしている。
 文化遺産でも事情は変わらないだろう。世界遺産に登録されたことで、貴重な自然や文化が逆に損なわれては本末転倒だ。
 地球上には既に、960以上の世界遺産が存在する。関係者からは「数が増えすぎて、しっかり守られていないのではないか」との指摘も強まっているという。
 県内では2000年に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」が世界文化遺産に登録されている。さらに「奄美・琉球」(鹿児島県・沖縄県)についても自然遺産での登録を目指した作業が進んでいる。
 世界遺産登録がもたらす相乗効果への期待は大きい。しかし、世界遺産登録の目的はあくまで、その自然や文化の価値の保全であることを忘れてはいけない。
 自然・文化遺産の保全と観光・地域振興をどう調和させるか。国民全体で考える機会にしたい。