原発政策の岐路 なし崩しは許されない


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 東日本大震災による福島第1原発事故から2年余がたち、原子力政策が早くも岐路に立っている。キーワードは「なし崩し」だ。

 国内で唯一稼働中の関西電力大飯原発3、4号機の運転継続の可否判断に不可欠な調査を、関電が事実上、拒否した。
 原子力規制委員会は耐震安全性を確保するため、大飯原発周辺の三つの活断層が連動した場合の安全性を調べるよう求めたが、関電は「連動を考慮しない」との方針を伝達した。
 問題となった活断層は、大飯原発近くの海側から若狭湾内に延びる二つと、陸側を走る一つだ。
 規制委は3、4号機に対し、7月に施行される新規制基準に適合するか、事前確認の作業を始めている。関電側は距離が離れていることを挙げ、「連動の可能性は低い」と主張していたが、原子力規制委は三つが連動した揺れによる安全性への影響を調べるよう、関電に重ねて強く求めていた。
 関電が「(3断層の連動を)考慮せず、審査に臨む」と回答したことで、運転が継続できない可能性も浮上した。関電はその責を負う覚悟があってのことだろう。
 原発の安全性に関する調査で万全を期す監督機関の要望を一蹴した関電側は、電力需給の逼迫(ひっぱく)を盾に、なし崩し的に稼働継続を図っているように映る。国民の懸念を拭い去る説明責任を放棄したに等しく、不遜と言うしかない。
 原発事故の反省に立ち、原子力規制行政を刷新する国を挙げた決意に冷や水を浴びせた。強制力がない調査要請の在り方も問われる。
 一方、安倍晋三首相はトルコを訪問してエルドアン首相と会談し、トルコ政府が原子力発電所の建設・運営事業で日本に優先的な交渉権を与えることで合意した。
 両国は原発技術の利用を平和利用に限定する「原子力協定」にも調印し、日本の三菱重工業など企業連合の受注が事実上決まった。
 原発事故の原因さえ完全に解明されず、事故収束のめども立っていない。原子力規制委は新安全基準をまだ出していない。輸出した原発で重大事故が起きれば、日本は責任をどう取るつもりか。なし崩し的な輸出は倫理的にも許されまい。
 安倍首相は「過酷な事故の経験と教訓を世界と共有するのは日本の責務だ」と述べた。そうであるなら、輸出解禁を踏みとどまるのが筋であろう。矛盾が一層際立つ。