介護保険見直し 軽度切り捨ては許されない


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 ゲームへの参加者を募った後、主催者に都合のいいように突然、ルールを変える。こんなゲームが長続きするはずがない。厚労省が考える介護保険制度見直しは、例えて言えばそのようなものだ。

 厚労省は、介護の必要度が低い「要支援1」と「要支援2」向けサービスを、介護保険制度から切り離すことを検討している。介護費用抑制が狙いで、サービス提供の役目を市町村に移す方向という。市町村にはボランティアやNPOの活用を求めるが、国に財源はないから市町村で何とかしろと言うに等しい。
 何年も介護保険料を払ってきた要支援該当者とその家族にとっても、市町村にとっても、納得がいくまい。切り離しを提言した政府の社会保障制度改革国民会議の議論に対し、専門家が「軽度切り捨て」と批判したのもうなずける。
 過去の経緯に照らしても理不尽だ。「要支援2」は2006年の制度改正でつくられた枠組みで、要介護1該当者の約6割が対象になった。受けられるサービスは少なくなったのだが、その際の理屈は「介護予防に重点を置く」というものだった。「重点」を置いたはずのサービスを、改正からわずか7年で制度の対象外にするというのだから、支離滅裂だ。
 そもそも「介護予防」も行政の勝手な呼び名で、該当者は何らかの不自由を抱える人がほとんどだ。決して「予備軍」ではない。それを保険から切り離し、ボランティアで代替できるのか。
 介護保険は、家族が抱え込んで苦しんできた介護を「社会化」するのが理念だったはずだ。見直しは結局、元の状態に誘導しているように見える。今でも介護保険の適用は必要な介護の一部にすぎない例が多く、たいていの家族は苦しんでいる。見直しはそれに拍車を掛けるようなものだ。
 数年ごとに猫の目のごとく、それも利用者の不利益になる方向にばかり変わる制度に、安心できる人がいるだろうか。これでは制度への信頼は痩せ細る。保険料支払いが滞れば、ますます制度は不安定になろう。
 こうした悪循環を断ち切るには、制度設計をする側が徹底して利用者の視点に立ち、「弱者切り捨て」を断固として排除する意思を示さなければならない。軽度の人こそしっかり支援し、重度化させないことの方が、財政面にも効果があると考えるべきだ。