日台漁業協定 懸念が大きい見切り発車


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 これでは踏んだり蹴ったりだ。尖閣諸島を含む周辺海域での漁業権をめぐり調印した取り決め(協定)に基づく初の「日台漁業委員会」が開かれたが、漁船数や漁獲高などの操業ルールを策定できないまま、物別れに終わった。

 日本の排他的経済水域(EEZ)での台湾漁船の操業を容認するなど、台湾側に大幅に譲歩した内容となっている日台漁業協定に対しては、県内からは白紙撤回を求める声さえ上がっているのである。
 こうした中、合意水域に関してもルール作りができず、ルール策定前の操業自粛を求めた、沖縄側のせめてもの訴えも受け入れられなかった。肝心要の約束事さえ定まらずに、10日の協定発効を迎える情勢だ。極めて遺憾で、由々しき事態と言わざるを得ない。
 尖閣諸島周辺は5~6月のマグロ漁最盛期を迎えている。漁船数などのルールがないまま双方の漁船が繰り出せば、はえ縄の切断や盗難など、現在もあるトラブルが増大する恐れは十分にある。
 さらに懸念されるのは、ルールのない状態で、操業船の数で勝る台湾側の「実効支配」が進まないかということだ。「このまま合意水域を適用したら、私たちが操業できなくなる可能性もある」。県内漁業関係者の訴えは切実だ。 
 日本政府は、台湾漁船が協定の合意対象水域を無視して違法操業した場合は拿捕(だほ)も含めて厳しく取り締まる方針を示しているが、これにも疑問や不安は尽きない。
 実際台湾側が、合意水域周辺に取り締まりを譲歩する「バッファーゾーン(緩衝水域)」の設置も、事前協議で議題として提案していたことも明らかになっている。
 今回の漁業協定交渉で、日本政府はあまりにも譲歩と拙速を重ねてきた。マグロ漁の最盛期に配慮したのかと疑いたくなるほどだ。
 尖閣領有権を主張する中国と台湾との連携を阻む思惑が先行したためだが、国策の見切り発車の代償を一方的に漁民らに負わすのは理不尽だ。
 そもそも、操業の基本ルールさえ決めることができない漁業協定に、どれだけ正当性があるのだろうか。中身の見直しを求める県側の訴えは理解できるし、ルール策定までの操業自粛を求めることも最低限の主張と言えよう。
 日本政府は県内漁民らの訴えを真剣に聞くべきだ。このままでは共存共栄の海にはならない。