首相の歴史認識 過去に目を閉ざすな


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 異例の苦言である。韓国の朴槿恵大統領が米議会の上下両院合同会議で、日本の歴史認識について訴えた。

 「歴史問題に端を発した対立が一層深刻になっている。歴史に正しい認識を持てなければ明日はない」
 第2次大戦中の「従軍慰安婦」や歴史教科書、靖国神社参拝などをめぐる安倍晋三首相の歴史認識は、日本の急激な右傾化と理解され、近隣諸国から警戒されている。
 首相の歴史認識に対して米国政府は非公式に「懸念」を伝達している。米議会調査局は「東アジアの国際関係を混乱させ、米国の国益を損なう可能性がある」との報告書を発表した。
 歴代政権は、近隣諸国に配慮した教科書記述を約束した「宮沢談話」(1982年)、「従軍慰安婦」問題で戦時中の旧日本軍の関与や強制性を認めた「河野談話」(93年)、植民地支配と侵略を謝罪した「村山談話」(95年)を発表してきた。
 「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げる安倍氏が行おうとしているのは、日本が内外に確認してきた歴史認識の転換にほかならない。
 ヴァイツゼッカー元ドイツ大統領が指摘したように「後に過去を変更したり、あるいは起こらなかったことにしたりすることはできない」のである。そして「過去に目を閉ざす者は結局、現在にも盲目となる」のである。
 安倍首相は「歴史認識に関する問題が外交、政治問題化されることは望んでいない」と言う。しかし他国に到底受け入れられないような歴史認識が問題化するのは当然だ。国内でも4・28をめぐり「主権回復の日」という認識が沖縄側から反発を受けたばかりだ。
 特に「侵略という定義は国際的にも定まっていない」という首相発言は、独りよがりで国際社会に通用するものではない。米紙は「恥ずべき発言」「歴史に向き合う能力がない」などと批判した。
 侵略は74年の国連総会決議で明確に定義されている。その定義に照らすまでもなく、日本は明らかに他国を侵略したのである。
 首相の言う「未来志向」の国際関係は、過去に目を閉ざしたままでは築けない。首相は朴大統領の発言を重く受け止め、歴史を直視すべきだ。