マイナンバー 拙速な法案成立許されず


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 国民一人一人に番号を割り当て、年金や納税の情報を番号で一元的に管理するマイナンバー(共通番号制)法案は衆院本会議で9日可決され、参院で10日から審議入りした。法案は疑問点が数多く、成立は自明ではない。丁寧な審議を尽くすべきだ。

 内閣府の2年前の世論調査では8割以上の人が制度の内容を知らないと答えた。その後も国民論議が深まったとは言えず、政府は国民参加で制度を築く姿勢に欠けている。
 安倍晋三首相はマイナンバーについて「社会保障や税制の基盤となる。国民の利便性向上や行政効率化を実現したい」と利点を強調する。政府が個人情報を一元的に管理することで、行き過ぎた国家管理で監視社会を生み出す危険性はないのか。また情報流出の懸念も払拭(ふっしょく)できない。
 利用範囲は当初、社会保障と税、災害対策に限るとしている。しかし法案では「国民の利便性向上につながる行政以外の分野」での利用可能性を考慮する必要があると明記した。3年後をめどに民間などへの利用拡大を検討するようだが、システムに接続できる人数が増えれば増えるほど、情報が流出する危険性は高まる。
 住民登録番号を幅広く利用する韓国では不正接続による番号流出や盗用の被害が多発している。米国では社会保障番号の不正取得による「成り済まし」犯罪の損害額が年間約500億ドル(約5兆円)に上っている。こうした深刻な事態を政府はどう考えているのか。
 制度の費用対効果があるのかも疑問だ。政府はシステム構築・改修費用を現時点で2700億円程度と説明している。政府は行政事務の効率化などについて「効果の数値化が難しい」として費用対効果を示していない。国民が妥当性を判断する材料があまりに乏しい。
 マイナンバーと同様に全ての国民に住民票コードを割り振った住民基本台帳ネットワークは使い勝手の悪さから利用が進まず、住基カードの普及率はわずか約5%だ。内閣官房の関係者はマイナンバーのICカードの申請者は国民全体の「3~4割にとどまる」と見ている。膨大な公費の無駄にならないのか。
 国民にとって大きな影響を及ぼす制度にもかかわらず、あまりに国民的議論が尽くされていない。拙速な審議のまま今国会で法案を成立させることは許されない。