人民日報論文 歴史の恣意的な曲解だ


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 中国共産党機関紙の人民日報が「琉球の帰属は歴史的に未解決」と主張し、沖縄の位置付けも議論すべきだとの論文を発表した。

 尖閣諸島をめぐる問題で、日本に揺さぶりを掛ける狙いがあるのは疑いなく、歴史を恣意(しい)的に曲解していると指摘せざるを得ない。
 仲井真弘多知事は「不見識の一言に尽きる」と不快感をあらわにしたが、至極当然の反応だ。それこそ、まともに反論する価値もないというのが本音のところではないか。
 論文は「琉球は独立国家で、明初から明朝皇帝の冊封を受けた、明・清期の中国の藩属国だ」とした上で、「琉球処分」に触れ、日本が武力で強制的に併呑(へいどん)したと指摘。尖閣と同様、日本が敗戦を受け入れた時点で日本の領有権はなくなったとの認識を示した。
 琉球が中国の冊封体制下にあったのは歴史的事実だが、外交儀礼的な朝貢関係であり、属国ではない。この理屈が通用すれば、ベトナムや朝鮮半島も中国領になってしまう。
 確かに論文を冷静に読めば、中国が沖縄の領有権を主張しているわけではないことは分かる。
 論文の執筆者の1人は「琉球は歴史的に独立国。『中国のものだから、取り戻せ』と主張するものではない」と中国紙に答えているが、日本を挑発しつつ、愛国心をあおる狙いが見え見えだ。実際、中国のネット上では「沖縄は中国領だ」「沖縄奪還」など過激な書き込みが相次いでいるという。結果的に日中間の無用な対立をあおり、自国民の反日感情をエスカレートさせていることは、極めて非生産的な行為だと認識すべきだ。
 日本側にも冷静な対応を求めたい。中国の主張が筋違いであることは疑いないが、日本政府や大手メディアが過剰反応することは、人民日報系の環球時報が「(同論文が)日本を緊張させた」と報じたように、相手の思うつぼだ。
 一方、論文が指摘するように、沖縄の歴史的な歩みは複雑だ。薩摩侵攻や「琉球処分」を源流とするような、苦難を強いられる状況は今なお続く。
 普天間飛行場移設問題やオスプレイ配備などをめぐり、民主主義の適用、自己決定権を求める沖縄の機運はかつてなく高まっている。
 日本政府が民主国家のらち外に沖縄を置き続けている現状が、中国側の要らぬ挑発を招いている面があることも忘れてはならない。