患者死亡の届け出 医療安全へ役立てよ


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 厚生労働省は、診療行為に絡んで起きた予期せぬ患者死亡事例について、第三者機関への届け出と病院内調査を義務付ける方針を決めた。医療事故の実態把握が目的で、すべての病院や診療所が対象だ。医療の安全を後押しする新たな制度確立を期待したい。

 国内医療機関は約8500の病院に対し、診療所が約10万、歯科診療所は約6万8500を数えるが、死亡事例の届け出義務があるのは高度医療を提供する大学病院などの約270施設にすぎない。大病院の事故対策の議論は進んできたが、全体の95%を占める中小医療機関での対応の遅れが指摘されていた。
 予期せぬ患者死亡があった場合、現在は医療機関による調査の義務はないが、今後は医療法に基づいて義務付ける。調査結果は第三者機関に報告し、遺族にも開示。医療機関の対応や調査結果に納得できないケースでは、遺族は第三者機関による調査を申請できる。医療機関側からの申請も可能だ。
 2009年秋に厚労省が行った国民意識調査によると、医療事故で中立的な第三者機関が原因を調査する必要があると考える人は97%に達し、回答者の約半数を占めた医療従事者に限っても95%に上る。帝王切開を受けた妊婦が死亡し、産科医が06年に逮捕された福島県立大野病院事件(無罪確定)を機に、医療現場からも第三者機関設置を求める声が高まっていた。
 厚労省は08年6月に医療事故調査の法案大綱案を公表したが、悪質な事例は警察に通報するとした内容に医療現場が反発。政権交代で民主党は院内調査に重点を置く法案を示すなど曲折を経たが、今回の新制度では原因究明を一義的に院内調査に委ねて「医療現場の自治」を尊重。第三者機関からの警察への通報は外し、警察通報は従来通り医師法の「異状死」の届け出規定に基づき対応する。
 県内では4月に生体腎移植手術中の提供者が死亡する事故も起きている。新制度の目的は医療事故原因の究明と再発防止だ。医療現場の情報はともすれば閉ざされがちで、「知る権利」に十分応えきれない部分があったことも否めないだろう。
 不幸にも発生した事故の教訓を広く共有して医療の改善を促し、国民が安心して医療を受けられる実効性のある仕組みを一日も早くつくるべきだ。第三者機関を含めて制度の透明性の確保が肝要だ。