卵子バンク 法整備の是非熟議を


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 早発閉経などで子どもが産めない患者を支援する民間団体「卵子提供登録支援団体(OD-NET)」(神戸市)は、無償で卵子を提供するボランティア9人を登録し、提供を受ける患者3人も決まったと発表した。年内にも最初の体外受精が実施される予定だ。

 親族や知人以外の女性からの提供卵子で体外受精をする「卵子バンク」は国内初で、日本の生殖補助医療は新たな段階に入ったと言える。
 もとより国内では卵子提供に関する公的な規制はない。全国の不妊治療クリニックなどでつくる日本生殖補助医療標準化機関が独自の指針を定め、ほとんどが姉妹で実施されるが、2007年から13年1月までで28例にとどまる。
 一方、民間業者を介した海外渡航で第三者から卵子提供を受ける人は、専門医の調べでは年間300~400人とも推計されている。不妊治療への関心の高まりを背景に、卵子提供がビジネス化しているのが実態と言えるだろう。
 こうした中、国内での卵子バンクは、染色体異常のターナー症候群など病気で卵子を持たない患者にとって紛れもなく朗報だ。異国での治療は高額の費用や慣習の違いなど経済的、精神的な負担も大きい。半面、卵子提供をめぐる国内の法的な環境整備が進まない中、見切り発車との指摘があることにも留意する必要がある。
 生まれてきた子どもが出自を知る権利や子どもの法的地位の問題をはじめ、採卵に伴う不慮の事故が起きた場合や生まれた子どもに障がいがあった場合の対応など、課題は山積するからだ。卵子提供など生殖補助医療をめぐる法整備の検討を急ぐとともに、倫理的なルール作りに向け、国民的議論を加速させる必要があろう。
 そもそも、夫以外の匿名の第三者の精子を使った非配偶者間人工授精(AID)は、国内では1948年から始まっており、これまで1万人以上が生まれたとされる。AIDで生まれた事実を知った子どもたちは、アイデンティティーの喪失など心に深刻な傷を負うことなどが問題となって久しい。
 田村憲久厚生労働相は、法整備検討について「検討会を立ち上げる時期ではない」と否定的な見解を示したが、見識を疑う。生殖補助医療をめぐる実態や倫理上の課題と向き合わないことは、国の怠慢にほかならないと心すべきだ。