生活保護改正案 申請手続き厳格化は疑問


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 不正受給対策を強化する生活保護法改正案と、生活困窮者自立支援法案を政府が閣議決定した。

 不正受給は許されないし、生活困窮の負の連鎖を断ち切る支援策の拡充も必要である。しかし今回の改正案は、不正受給対策を名目に手続きを過度に厳しくし、法制度を骨抜きにすることにならないか、疑問を禁じ得ない。
 改正案では罰則を強化し、不正分の返還金にペナルティーとして4割加算できるようにしたほか、受給者を扶養できないとした親族に理由の報告を求めることとした。
 問題なのは、生活保護の申請時に、受給者本人の資産や収入などを書き込んだ書類を提出することを明記したことだ。
 現行運用では、住居の賃借契約書や預貯金通帳などの必要書類は申請後に求められれば提出することも可能だが、改正案はこれら書類が申請時にそろっていなければ受け付けないとの趣旨だ。
 しかし、これは厳しすぎる。実際に生活に困窮し、一刻も早く支援を必要としている人に対し、書類が用意できないのなら申請するなとでも言うのか。受給者支援団体などから「申請窓口でシャットアウトする『水際作戦』を合法化するものだ」と反発が上がるのも無理はない。
 政府は「運用はこれまで通り」として、書類不備を理由に窓口で門前払いしないように各自治体に通知するという。しかし運用が変わらないのなら、なぜ法律を改めて明記する必要があるのか。
 不正受給者の割合は受給者全体のごく一部との指摘もある。その対策を重視するあまり、受給のハードルを上げるのは、現在でも本当に必要としている人に行き届いていないとされる生活保護制度を、さらに形骸化させかねない。
 一方政府は、生活保護に至らないよう仕事と住居を失った人に家賃を補助する制度を恒久化するなどの方策を打ち出した。こういった自立支援策は着実に推進してもらいたいが、これは何も、生活保護受給の申請手続きを厳格化しなければできないというものではあるまい。
 生活保護費のうち「生活扶助」の基準額が8月から3年程度かけて段階的に引き下げられる。申請手続きの厳格化案は「最後の安全網」としての生活保護制度をさらに危うくする恐れがある。国会での慎重審議を求めたい。