台湾船銃撃 紛争回避外交で活路開け


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 「海の火薬庫」といわれる南シナ海付近で、新たな火種が加わり緊張が高まっている。

 台湾とフィリピンの間のバシー海峡周辺で9日、フィリピン沿岸警備隊の警備船が台湾漁船に発砲し乗組員1人が死亡した。フィリピン側は、違法操業に対する警戒の中で起きた「不幸な事件」と発表。50発以上被弾した台湾側は「国際法に違反する」と猛反発し、フィリピン人労働者の受け入れ凍結などの制裁を発動する事態となっている。
 沖縄と最も近い海外での国際紛争であり無関心ではいられない。
 尖閣諸島周辺の漁業権に関する日台漁業協定が今月10日に発効したが、漁獲量など操業ルールは策定されないままで、台湾船とのトラブル増の懸念が強まっているからだ。実際、協定発効後、先島諸島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)で違法操業していた台湾船の拿捕(だほ)は3件発生している。
 銃撃事件をめぐる双方の動きをはじめ、今後の沖縄と台湾の漁業協議への影響や、台湾漁船の動向などを注視する必要がある。
 今回の事件発生現場は、台湾とフィリピンの双方がEEZを主張する海域で、事件の背景には“主権”をめぐる激しい対立がある。領有権問題は対外強硬論の台頭など排外的ナショナリズムの温床となりやすい。尖閣諸島をめぐる日中関係悪化を見るまでもない。
 台湾とフィリピンは南シナ海の南沙諸島問題も抱えるだけに、なおさら冷静な対応を求めたい。
 6カ国・地域が領有権を主張する南沙諸島問題では、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国が2002年に「南シナ海行動宣言」を発表。(1)領有権問題の平和解決(2)島・岩礁の実効支配拡大自粛-などをうたった。中国とフィリピンなど緊張関係こそ続くが、深刻な武力衝突は起きていない。
 だからこそ、今回のバシー海峡の紛争解決も、宣言を踏まえ、貴重な知恵を無にすることがあってはならない。
 ASEANは法的拘束力のある「行動規範」への格上げを求めている。中国は消極的だが、ぜひ紛争回避の枠組みを強固に、より恒久的にしてもらいたい。
 経済のグローバル化の進展で、アジア各国の相互の結び付きは強まる一方だ。台湾とフィリピンしかり、日中しかりだ。ASEANが長年実践する「紛争回避外交」で活路を見いだしたい。