原子力機構事故 「フクシマ」に真剣に学べ


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 想定外とか、認識が甘かったとか、そんな言い訳がまだ通じると思っているのか。原子力事業者は国民をみくびってはいけない。

 茨城県東海村の日本原子力研究開発機構の実験施設で23日正午ごろに放射性物質が管理区域外に漏えいする事故があった。実験施設に出入りした55人のうち大学院生を含む男性6人が1・6~0・6ミリシーベルトの内部被ばくをした。被ばくはさらに増える可能性がある。
 事故は原子核素粒子実験施設で金に陽子ビームを当て素粒子を発生させる実験中に起きた。装置の誤作動で短時間に計画の約400倍の強いビームが当たり、金の一部が蒸発し放射性物質が漏れた。
 機構が原子力規制庁へ報告したのは24日夜で、その時点で事故から1日半が経過していた。県との原子力安全協定で事故時には「直ちに通報」する取り決めになっているが、機構はそれを怠った。規制庁が25日の真夜中の緊急会見で事故を公表したが、裏返せばこれは機構の危機管理がいかにずさんかを物語る。猛省を求めたい。
 機構は管理区域内で想定される範囲内の汚染と過小評価し、排気ファンを作動させた。この時、放射性物質が施設外に漏れたとみられる。想定範囲内の汚染との判断は、「思い込み」以外の何物でもなかった。放射性物質は「漏れた」のではなく、関係者が思い込みで「漏らした」と理解すべきだ。
 今回の内部被ばくに関し、機構は「健康にどういう影響があるかは分からないが、原発作業員などの年間被ばく限度は50ミリシーベルトだ」と説明。福島第1原発事故の直後、政府や東電関係者が口にした「健康に直ちに影響を及ぼすものではない」という言い訳を想起させる。これが「原子力安全神話」に染まった人々の体質か。
 機構は、中核事業の高速増殖炉原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)で重要機器の点検漏れが相次ぎ、原子力規制委員会から今月、運転再開準備を禁止された。経営トップも引責辞任した。緊張感を持ち再出発すべき危機的状況なのに、逆に事故を再発させ事業者としての資格と自浄能力の欠如をさらけだした格好だ。
 「安全神話」が崩壊し、核廃棄物の最終処分方法も確立しない中、原発依存を続けることは無責任であり倫理上も許されない。国は「フクシマ」を教訓に、脱原発への政策転換を真剣に検討すべきだ。