公務中米兵犯罪 まかり通る不条理を正せ


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 交通事故などを起こしてけが人を出してしまえば、法に従って相応の刑事罰が科される。仕事中でも私的な時間でも、法治社会の下では当然のことである。

 日米地位協定で守られる米軍人にはこうした常識が通用しない。被害に遭った国民からすれば、不平等感を抱かずにはいられまい。
 公務中の米軍人が2009~11年に起こした死亡・傷害事件事故188件のうち、被害者が全治4週間に満たないけがを負った事例で、3人が「処分なし」とされていた。
 残りの185件は全て懲戒処分で済まされた。被害者が死亡、もしくは全治4週間以上の重傷を負った事案を含め、刑事裁判を意味する軍法会議にかけられた例はない。
 ほとんどが交通事故とみられるが、国内で起きた事件・事故であるにもかかわらず、公務中という理由だけで刑事事件を起こした在日米軍人が特別扱いされている。
 「処分なし」の理由について、外務省は「米軍との信頼関係」を挙げて明らかにしていない。国民への説明責任を放棄している。
 自らの罪に向き合う機会となる法廷で裁かれることなく、米軍内での懲戒や免許停止などの行政処分だけが科されたのだろう。これが主権国家・日本の現実である。
 国会で理不尽な状況が報告されたのと同じ日、那覇地検はことし3月に北谷町の県道で貨物車を運転してバイクと衝突し、運転していた県民を死亡させた米海軍の3等軍曹を不起訴処分とした。
 日米地位協定の定めで、第一次裁判権が米側にあるためだ。日本の法律で容疑者が裁かれず、遺族は無念の思いを強めているだろう。
 米軍人が基地外で事件・事故を起こした場合、公務中であるか否かを判断する権限は米軍が握る。1956年には飲酒運転で事故を起こしても、公務中の催事の帰りなら日本側が裁けないという驚くべき秘密合意が交わされていた。飲酒運転は全て「公務外」と是正されたのは55年後の2011年だった。
 公務中であろうがなかろうが、米兵が起こす事件・事故は日本の法律で裁かれるべきだ。不平等、不公正がまかり通っている。
 基地の過重な負担の軽減に手をこまねいて、日米地位協定が抱える不条理も放置している国は主権国家を掲げることをやめた方がいい。外務省は公務中の免罪を改める対米交渉に踏み出すべきだ。