橋下氏問責否決 市民置き去りの党利党略


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 従軍慰安婦発言問題をめぐる橋下徹大阪市長(日本維新の会共同代表)への問責決議案が大阪市議会で否決された。党利党略に走り、法的拘束力のない決議すらできない議会の対応はふがいない。

 決議案は自民、民主系、共産、公明の賛成で可決の見通しだった。松井一郎大阪府知事(維新幹事長)が30日午前、橋下市長が辞職して出直し市長選を実施するとの見通しを表明。これを受けて公明が出直し選挙回避を優先し反対に転じたため、問責決議案は反対多数で否決された。「問責」の文言を削除した公明案も否決された。
 各党派には参院選とのダブル選挙を準備する余裕がない、橋下氏への有力対抗馬をすぐに出せない事情があるのだろう。だが党利党略が優先し、有権者の疑問や不満が顧みられないのは理不尽だ。
 公明幹部は「出直し選挙になれば橋下氏が息を吹き返す可能性もあった。今回は勇気ある撤退を選んだ」と述べた。苦しい弁明だ。市民は「市民不在だ。ばかにするな」と反発している。橋下氏も議会も市民を置き去りにしてはならない。
 否決後の橋下氏の発言には驚いた。慰安婦発言に関し誤解を招いたとして市民に陳謝する一方で、「自分が言っていることは正しいと思っている。国際問題などを気にしては政治はできない」と述べ、自らの非を認めていないのだ。
 問責決議案は、橋下氏が在日米軍に風俗業活用を求めた発言について米軍と米国民に謝罪しながら「市民への謝罪は一切無く、誠意が全く感じられない。職責を全うしているとは言い難い」と批判。「国際問題に発展し、大阪市の国際交流の歴史を傷つけた」ことへの猛省を促し、政治的責任を自覚した言動を強く求めていた。
 問責決議案は、辞職勧告までは踏み込んでいないものの、趣旨はまっとうだった。否決で市議会が議会の権威と健全なチェック機能を示す機会を逸したのは極めて遺憾だ。
 決議案否決は「問責というのは辞職勧告だ。民意を問うことになる」との松井知事の議会へのけん制が奏功した形だが、この発言は恣意(しい)的な法解釈で噴飯ものだ。
 維新が出直し選挙という“奇策”をぶつけ勝利した気分になっているのならお門違いだ。橋下氏は国民から依然、厳しい批判があることを自覚し、自ら政治家としてのけじめをつけるべきだ。