成長戦略 威勢はいいが新味なし


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 日銀の大胆な金融緩和、機動的な財政出動に続き、成長戦略が示され「アベノミクス」の「三本の矢」が出そろった。投資70兆円など威勢のいい目標が並ぶが、具体策は新味に乏しい印象を受ける。

 まず企業支援に重点を置き過ぎている。支援する理由は、企業を強くすれば、もうけが滴のように下に垂れてきて、給料が上がり雇用も増える、という理論に基づいている。
 楽観し過ぎではないか。景気が回復軌道に乗らなければ、滴は垂れず給料は上がらない。
 現に最近の株の乱高下や長期金利の上昇で「アベノミクス」の雲行きは怪しくなっている。円安効果で企業業績は改善しているが、狙い通りに設備投資に結びつくか不透明だ。賃金上昇の兆しも見えない。円安で食品価格や電気料金も上がり「アベノミクス」の副作用が家計を直撃している。
 企業に手厚い半面、家計を直接支援する施策は一部にとどまっている。格差が広がる中で貧困層など弱者に対する施策も薄い。
 安倍晋三首相は、10年後に1人当たり国民総所得(GNI)が150万円以上拡大するとの目標を表明した。長期戦略の狙いを「頑張って働く人たちの手取りを増やすこと」と説明している。
 バラ色に見える将来像だが、年収が単純に150万円増える訳ではない。GNIは国民と企業が1年間に国内外でつくりだしたもうけの総額を表す。150万円の中には企業のもうけが含まれているので、その分を差し引いて考える必要がある。
 そもそも150万円の前提として、今後10年の平均で名目3%の経済成長を目指している。人口が減る中で実現可能なのか疑問だ。
 雇用分野は、働く時間や勤務地が限られる「限定正社員」の普及が盛り込まれた。だが「正社員」とは名ばかりで解雇条件が緩い。解雇されやすい人を増やす結果になりかねない。
 目玉の「国家戦略特区」の設置は、大都市中心に地域を絞って規制緩和する。これでは大都市と、地方の格差が広がってしまうのではないか。
 エネルギー分野で、原発の再稼働に「政府一丸となって最大限取り組む」と明記した。原発事故の原因究明が終わらず、原子力政策も定まっていないまま「原発活用」を鮮明に打ち出すことは、理解できず、的外れと言わざるを得ない。