トルコ反政府デモ 民主化の歩み止めるな


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 トルコの最大都市イスタンブールで5月31日に始まった再開発計画への反対デモが全国的な反政府デモに発展し、エルドアン政権を窮地に立たせている。平和的な抗議行動を機動隊が催涙弾で弾圧したのが発端。その代償は大きい。

 トルコ医師会によると、6日までに全国でデモ参加者2人が死亡し、4785人が負傷した。デモ隊と治安部隊の衝突で社会が混乱し、観光や株価下落など経済にも悪影響を及ぼし始めている。
 エルドアン首相はデモ隊が求める中心部の公園の保護には応じず、再開発計画を強行する方針。首相の姿勢は理解に苦しむ。優先すべきは自らのメンツや合意なき政策ではなく、市民の安全と民主的な政権運営だ。市民は再開発撤回はもとより、強権政治の見直しを要求している。それを直視すべきだ。
 イスラム色の強い公正発展党(AKP)を率いるエルドアン氏は03年の首相就任以来、着実に経済成長や少数民族への融和策などを実現、業績に自信があるに違いない。だが、反政府デモはAKP支持層を含む各層へ波及している。
 デモ拡大の背景として、酒類の販売制限やシリアの反アサド武装勢力への支援、政府に批判的なジャーナリストや報道機関への弾圧を指摘する向きもある。世俗派を中心に市民からは首相に対する「独裁者」批判が先鋭化し、市民生活への国家介入に拒否反応も強い。
 「独裁」批判の中には、AKPが昨年提案した米国型の大統領制導入もある。エルドアン首相も国民の直接選挙による大統領の選出を考え、大統領権限の拡大を構想しているが、これについても国民の間に根強い抵抗感がある。
 AKPは民主的な選挙で勝利して政権を維持し、この10年で国内総生産(GDP)を2倍以上に増加させた。イスタンブールだけでもアジアとヨーロッパをつなぐボスポラス海峡の3本目の橋や海底トンネル、新たな国際空港などの計画がめじろ押し。首相の強い指導力が経済を後押ししたとされる。
 「アラブの春」で政権が倒れたエジプトなどからは「穏健イスラムと民主主義、経済発展を調和させている」とモデル視される。
 エルドアン首相は、トルコの民主化を逆行させてはならない。強権政治と決別し、国民の求めに応じて退陣するか、民主的な選挙で堂々と信を問うべきであろう。