成長戦略 吹き矢で終わらせるな


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 「期待」先行で景気を押し上げてきた安倍政権の経済政策「アベノミクス」が正念場を迎えていると言っても過言ではないだろう。

 政府の産業競争力会議は、投資減税や規制緩和により企業の設備投資や成長分野での創業を促すことを柱とする成長戦略を決めた。
 戦略は企業の成長に力点を置くが、歴代政権の経済政策の焼き直しも目立つ上、家計に還元される仕組みは不透明のままだ。
 企業の業績改善を家計の収入増につなげ、消費拡大を促す経済の好循環を生み出してこそ真の景気回復と言える。政府は国民の暮らしにまで恩恵が行き渡る道筋を具体的かつ早急に示す必要がある。
 市場の反応も芳しくない。13日の東京株式市場の日経平均株価は下げ幅が一時870円を超えるなど急落。成長戦略が新味に乏しかったことも失望感を誘った。
 戦略の素案が発表された今月5日にも株価が大幅に下落した。市場や経済界が期待する法人税の税率引き下げや、農業や労働分野の規制緩和が先送りされたためだ。
 安倍晋三首相は急きょ、今秋にも戦略第2弾をまとめる考えを表明したが、7月に迫った参院選もにらみ泥縄の印象は拭えない。
 農業分野では株式会社による農地取得などの規制緩和が、雇用分野では金銭の支払いを条件に従業員の解雇を認めるルールの導入などが見送られた。自民支持層の農業団体のほか、解雇ルールは国民の反発を招く恐れなど政権運営への悪影響を懸念したためだ。参院選後も大企業優先でなく、生活者の視点を忘れてはならない。
 戦略は、1人当たりの国民総所得(GNI)を10年後に150万円以上増やす目標も掲げるが、年収とは別物であり、国民に誤解を与えかねない。GNIは国内総生産(GDP)に企業などが海外での生産や投資で得た収益の純受取額を加えたものだ。仮に海外で利益を上げた企業が設備投資や株主配当を優先すれば、給与増にはつながらない。
 アベノミクスは金融緩和、財政出動、成長戦略を「三本の矢」に見立てるが、自民党内からも「3本目の矢は吹き矢」(幹部)との指摘もある。
 期待と失望は表裏一体だ。期待が膨らむほど戦略が実効性を欠いた場合の失望は大きくなる。首相は成長戦略を吹き矢のままで終わらせてはならないと心すべきだ。