高齢者虐待 地域がもっと目配りを


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 65歳以上の高齢者が家族や親族などから虐待を受けた件数が、2012年度は県内で176件に上った。前年度より38件増え10年度の179件に次ぐ多さとなった。

 県によると、06年4月に施行された高齢者虐待防止法が浸透し市町村などへの相談件数が増えたことや、介護計画作成などを担当するケアマネジャーなど関係機関の連携で掘り起こしが進んだことが要因とされる。
 近く到来する超高齢化社会に向け、虐待の実態把握を進めることは極めて重要だ。虐待にもさまざまなケースがあり、その事情も背景も異なるだけになおさらだ。国や県は自治体などと連携し、虐待防止に向けた啓発活動を積極的に展開してもらいたい。
 虐待と言えば、殴る、蹴るの暴力がすぐに頭に浮かぶ。実際、12年度の県内は、「身体的虐待」が109件(61・9%)と最多だったが、暴言を浴びせるなどの「心理的虐待」も104件(59・1%)と同様に多かった。そのほか、年金や貯金を勝手に使うなどの「経済的虐待」が49件(27・8%)、「介護放棄」も34件(19・3%)あった(複数回答)。
 虐待された被害者のうち138人(78・4%)が女性で、虐待した人は被害者の「息子」が105人(59・7%)と最も多かった。被害者のうち、認知症の人も77人(43・8%)を占めた。
 介護や家事に不慣れな男性が、介護の負担感からいら立ちを募らせ、虐待に向かうケースもある。配偶者からのドメスティックバイオレンス(DV)を含め、虐待を受けている本人が自覚しつつも、世間体などをはばかって事実を言い出せない場合もあるという。
 こうしてみると虐待を未然に防ぐことは容易ではない。だからこそ早期発見や予防に向け、認知症などの高齢者を抱える家庭に対する国や自治体の支援体制の一層の充実が不可欠だ。同時に、そうした家庭を孤立させずに、温かく見守る地域社会の役割は大きく、関係機関とのより強い連携も求めたい。
 一方、県の調査では11年度に3件あった養介護施設職員による虐待は12年度は確認されなかった。一般的に「きつい、給料が安い、汚い」の3K職場と呼ばれる介護施設の現場は、経験不足の職員にストレスがたまり、乱暴な言葉や行動に走りやすいとされる。介護の担い手の待遇改善も急がれる。