与那国自衛隊配備 国境交流こそ深化すべきだ


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 与那国町の町有地を防衛省に貸し出す契約案が町議会に提出され、賛成多数で可決された。陸上自衛隊沿岸監視部隊などを配備するためだ。有権者の半数近くが反対に署名しており、意見が二分する中で計画が進むのは大きな疑問だ。

 町有地の農牧地21・4ヘクタールを年間約1500万円で貸し出す。防衛省は当初、年間500万円で借り上げる方針だった。ところが今月に入り、町が求めていた宅地並みの借地料での算定に応じ、3倍も引き上げた。農牧地に宅地並みの賃料を支払うことは公金支出上問題ないのか。
 防衛省が賃料引き上げに応じたのには理由がある。外間守吉町長は3月、賃料引き上げと「迷惑料」10億円の要求を掲げた。ところが今月14日、町長が防衛省に10億円の撤回を伝えている。これが賃料引き上げの呼び水になったのだ。
 外間町長はなぜ10億円要求を撤回したのだろうか。町長は4月、防衛省の提示額では十分な経済効果が得られないとの認識を示した上で、10億円要求は「一歩も譲らない」と断言していたはずだ。
 これにもからくりがあった。防衛省が振興策でごみ処理や漁業関連の施設整備の検討を始めていたのだ。外間町長は「10億円に近いハード事業の裏負担」と明かす。金の駆け引きで自衛隊が誘致されていいのか。
 与那国島に自衛隊を配備する目的について、町は地元活性化など経済効果を挙げ、自衛隊は南西地域の防衛力強化を掲げている。同床異夢のまま物事が前に進むのは明らかに異常だ。
 町長は「産業と位置付けている」と説明するが、自衛隊基地のある対馬は人口減少に歯止めがかかっていない。自衛隊誘致による地域活性化は幻想そのものだ。
 防衛省は約100人の沿岸監視部隊を配備する計画だ。6月2日時点の町の選挙人名簿登録者数は1212人だ。隊員の一部が配偶者と島に渡れば、町の選挙人の1割が自衛隊関係者で占められることになる。政治意思を左右する勢力となり、地方自治の在り方として疑問だ。
 むしろ町が05年に打ち上げた台湾交流の国境交流特区構想こそ健全だ。しかし国は構想を却下した。国が町を追い込み、町が自衛隊誘致にすがるしかない構図はいびつだ。「国境の島」は国境交流こそ深化させるべきで、「軍隊」配置で対立を生むのは不健全だ。

英文へ→Yonaguni should promote exchange with Taiwan instead of accepting SDF