統合司令官 文民統制が後退しないか


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 防衛省が陸海空3自衛隊の部隊運用を一元的に指揮する「統合司令官」の新設を検討しているという。制服組トップの統合幕僚長に次ぐ地位を想定。統幕長は最高ポストのまま、防衛大臣への軍事専門的補佐に専念する構想のようだ。

 これが実現すれば、制服組の権限、発言力は間違いなく強くなるだろう。それによって、戦前の軍国主義の反省の上に立った「文民統制」(シビリアンコントロール)が後退しないか危惧する。
 防衛省・自衛隊の現行体制では、統幕長は防衛相の軍事専門的補佐と陸海空3自衛隊の部隊運用という2本柱の機能を担っている。
 防衛省の構想は、統幕長の業務量が増えたので「統合司令官」と機能を分担するというものだ。
 増えた業務とは、昨今の尖閣諸島をめぐる中国の動向やミサイル発射の恐れが続く北朝鮮への対応が常態化していること、一昨年の東日本大震災の際に被災者救援などのため10万人余の自衛隊を動員したことなどを指すようだ。
 悪化した中国や北朝鮮との関係は、外交努力で正常化するのが筋だ。統合司令官新設という軍事的備えの先行には違和感を覚える。
 また、震災時に自衛隊が自治体や警察・消防などと担った被災者救出、救援物資輸送、遺体収容など、災害時対応の抜本見直しなら分かるが、なぜ司令官新設なのか。
 統合司令官構想は、米国型軍事組織への脱皮を意図しているようだ。米国では制服組トップの統合参謀本部議長は、国防長官の最高の軍事的助言者と位置付けられるが、軍に対する命令権を持っていない。軍を動かす際、大統領、国防長官から世界各地に置かれている陸海空海兵隊を束ねた統合軍司令官に命令が出される仕組みだ。
 米国の文民統制は参考となろう。ただ、それにしても自衛隊が世界を股に掛ける米軍をまねることは、専守防衛の「国是」に反する勇み足との懸念を拭えない。
 防衛省と自衛隊は、憲法改正草案で「国防軍」創設を打ち出すなど、自衛隊に理解のある安倍政権の勢いのあるうちに存在感を高めたいのだろう。しかし、国民的議論を欠いたまま省益拡大に走れば、どさくさ紛れに肥大化を図ったとのそしりを免れない。周辺諸国も警戒するだろう。防衛省は戦争を放棄した日本国憲法の精神から逸脱して、国防を弄(もてあそ)んではなるまい。